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富士山噴火に備える |
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2013年6月26日、ユネスコ世界遺産委員会で「富士山」(山梨、静岡両県)が世界文化遺産に登録された
(上の写真の右裾野に盛り上がった小高い山が宝永山と呼ばれる宝永年間に噴火したときの噴火口) |
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★宝永富士山大噴火
江戸時代中期1707年(宝永4年)12月16日午前10時ごろ富士山南東斜面から噴煙が上がった。宝永大噴火の始まりでした。東斜面には火山礫や高温の噴石(軽石)が大量に降り注ぎ家屋を焼き田畑を埋め尽くしました。日が暮れても噴火は続き闇の中に赤い火柱が上がり、火山雷による稲妻が走りました。噴火は約2週間続きます。この噴火により静岡県御殿場市から小山町は最大3mに達する軽石やスコリアに覆われました。家屋や物置が焼失し田畑は焼け砂で耕作不能となってしまいます。用水路も埋まり、被災地は深刻な食糧不足をきたします。とくに富士参詣の登山口である富士山東麓の須走村(現静岡県小山町)の被害は甚大でした。手毬ほどの火山岩塊は火気を含み浅間神社の小野神主邸をはじめ、通りに面した39軒が焼失し、残った37軒も12月27日までに降った3mを超える火山灰の重みと震動ですべて倒壊。住民たちは着の身着のまま避難し須走村はゴーストタウンのようになってしまいました。皆瀬川村(現神奈川県山北町)では、丹沢山中に散在していた集落80軒のうち12軒が倒壊しました。
大量の噴出物は偏西風に乗って静岡県北東部から神奈川県北西部、江戸(東京都)、さらに100㎞以上離れた房総半島にまで降り注ぎました。江戸でもは昼間でも行燈を付けなければならないほど空が暗くなったと記録されています。江戸に降った灰は2cm~5cmと推定されています。降灰量は7億㎥~8億㎥と推定されています。この噴火の49日前には宝永地震が発生し甚大な被害だし、富士山噴火によって人心を不安に陥れました。富士山東麓を覆った灰などが雨が降るたびに河川に流れ込み土石流や天然ダムができ、翌年6月21日からの豪雨で大規模な土石流が発生し酒匂川の大口堤が決壊し、足柄平野を火山灰交じりの濁流が埋め尽くしました。噴火灰などで川床が上がり、その後100年以上もの間酒匂川で土石流が繰り返されることになります。 |
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もし、富士山で宝永大噴火と同じ規模の噴火が発生したことを想定して、想定降灰分布図が発表されています(下図) |
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★富士山噴火時/想定降灰分布図
富士山周辺の御殿場市、裾野市、小山町、山北町、松田町、小田原市などには30cmから50cmの降灰が、神奈川県の大部分に10cm程度の灰が降ると想定。東京都、千葉県など広い範囲に2~10㎝の降灰が想定されている。想定は偏西風に乗って東方に降灰が流れるとしているが、1991年に発生したフィリッピン・ピナツボ噴火時は台風接近で通常の風向だけでなく広範囲に湿った灰が降り注いでいる。過去の既往災害だけを下敷きにした降灰ハザードマップは極めて危険。風向きによっては山梨や名古屋方面に向かって灰が降り注ぐことも想定すべきではないでしょうか。 |
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★火山灰の特徴
・粒子の直径が2mmより小さな噴出物をいう。(0.0063mm未満はシルト、0.063~2mmを砂と細分することもある)
・マグマが噴火時に破砕・急冷したガラス片・鉱物結晶片
・亜硫酸ガス、硫化水素、フッ化水素等の火山ガス成分が付着
・水に濡れると硫酸イオン等が溶出
・乾燥した火山灰粒子は絶縁体だが、水に濡れると酸性を呈し、導電性を生じる
・硫酸イオンは金属腐食の要因
・溶出した硫酸イオンは火山灰に含まれるカルシウムイオンと反応し硫酸カルシウム(石膏)になる。
・湿った火山灰は乾燥すると固結する
・火山灰粒子の融点は、一般的な砂と比較して約1,000℃と低い
・粒径分布は生成過程の噴火様式によって異なる |
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★富士山噴火による何が起きるか?
宝永噴火と同規模の噴火が起きた場合、最悪懸念(可能性)されることと対策すべきこと
1、5mm以上の降灰で、線路と車輪との導電性が失われる。またポイント・信号故障もあり、鉄道は運行不能となる。
2、東名高速道路を含め道路は5㎝以上の降灰で道路はすべて通行止めとなる。
3、2~5mmの降灰で航空機はエンジンに灰を吸い込む危険性があり、また滑走路が閉鎖され空の便は運航停止となる。
4、宝永噴火同様に約8億㎥の降灰を除灰するには長い時間が必要となり、経済活動や都市機能が停止する。
5、火力発電所の空気取り込み口のフィルターが目詰まりを起こし、発電能力が半減するため各所で停電が発生する。
6、地下水は問題ないが、河川を水源としている場合大量の降灰により取水制限、浄水能力半減で広域断水が発生する。
7、微細な火山灰により、呼吸器系に障害のあるひとの健康が悪化する。
8、道路、公共交通機関等の機能不全により物流が混乱し、生活物資や食料品等が不足し、孤立状態になる。
9、噴火後に大地震発生の危険性や不安により人心が乱れ、疎開しようとする車で大渋滞が生じる。
10、微細な灰によりエアコンのフィルター目詰まり、替えフィルター不足などにより、エアコンが使用できない可能性。
11、空気取り入れ口から侵入した微細な灰のため、パソコンやスマホなどが誤作動を起こす可能性がある。
12、富士山周辺では多数の建物被害が発生し、長期広域避難が必要となる。
13、雨が降るたびに降灰地域で土石流の危険性が続くため、避難勧告が頻繁に出される。
14、宝永噴火では約2週間で噴火が終息したが、過去の事例では数年間断続的な噴火した記録もあり、長期戦も視野に。
15、富士山噴火に備えて、広域避難訓練、健康弱者の疎開訓練など実践的訓練が必要となる。
16、流通混乱を想定し「備蓄推進条例」を制定し、各家庭、企業で1週間分備蓄を推進すべき。
17、水・食料・予備電池などと併せ、雨合羽、防塵マスク、布マスク、ゴーグル、目薬、耳栓、エアコン予備フィルター、吸気口予備フィルターなども備蓄しておく必要がある。 |
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1707年の宝永噴火以降300年以上も沈黙する富士山。いつ噴火するかの予知は現在の科学技術では極めて困難。火山性微動や火山性地震など大規模噴火の前には一定の予兆現象があるとされているが、絶対とは言えない。また、宝永噴火に準じて被害想定やハザードマップが作成されているが、宝永噴火時のように超巨大地震と連動して発生することは想定されていない。
宝永噴火と宝永地震と同様の連続災害など起きないほうが良いが、大噴火を起こしてから「想定外でした」と言わないようにするのが防災・危機管理。といって、すべての対策を万全にすることはコスト的にも合理的でないので、命に係わる事など優先順位とメリハリをつけた対策が必要。
火山の多くが数千万年、数百万年と活動を続けているが、富士山は約10万年程度。火山からすると若い火山であり、火山の傾向が確定しているわけではない。そのため、次回も宝永噴火と同じ噴火となるかは定かではない。、降灰など噴出物の想定量も宝永噴火を基準としているが、過去の噴火事例(下図)をみれば、噴火継続期間、噴火し噴出物量もさまざまである。すべてを最悪想定することは困難としても、過去の事例も参考にすべきではないだろうか。
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