|東日本大震災阪神・淡路大震災防災システム研究所現地調査写真レポート

平成27年9月関東・東北豪雨
現地調査写真レポート:文・写真/山村武彦

 2015年9月9日〜12日、台風18号に伴う豪雨(線状降水帯)により、関東、東北で61の河川が氾濫などにより甚大被害をもたらせた。このうち14の河川19箇所で決壊し広い範囲が浸水。とくに茨城県常総市の鬼怒川、宮城県大崎市の渋井川の決壊要因は本流の利根川、多田川の水位上昇によって引き起されたバックウォーター現象によるものされている。もし、バックウォーター現象によるとしても、なぜその場所が決壊したかの検証・分析・再発防止対策が求められている。9月16日現在、この豪雨災害による犠牲者は宮城県2人、栃木県3人、茨城県3人の計8人(総務省消防庁)。9月12日〜14日の3日間、常総市の鬼怒川決壊・浸水現場を回った。約40平方キロメートルが浸水した常総市では、まるで東日本大震災の津波現場を見ているような既視感を覚えた。
 この災害でヘリコプターにより救助された人は1,343人、地上部隊により救助された人3,128人、救助隊による救助者は合計4,471人に上る。雨中、決壊直後の困難な状況下にもかかわらず、見事な救助活動を展開し崇高な使命を果たした自衛隊、海保、警察、消防の皆様に、心より敬意と感謝の意を表したい。

ヘリコプターによる救助1,343人の内訳(自衛隊723人、海保99人、警察209人、消防312人)9.17現在

累計地上部隊数19,407人出動(うち10日〜14日で14,827人を投入し、初動に全力)9.17現在

常総市は市役所を始め主な市街地は鬼怒川と小貝川の間に位置する沖積低地
×印は鬼怒川左岸決壊箇所)

情報収集を行う国土地理院のドローン(9月10日午後5時、12日午後5時)

ドローンが撮影した決壊箇所(10日午後5時)資料:国土地理院

鬼怒川左岸(上の写真・右側の先)決壊箇所

鬼怒川決壊箇所(堤防断面)
日本のどこにでもある土盛り堤防
記録的大雨によるバックウォーター現象で越流し堤内(市街地側)に濁流が流れ込んだ
その水流が法尻、高水敷きなどをえぐり、堤防崩壊につながったと推定されている
もし、堤防がコンクリートだったら・・・(住民の言葉)
洪水の危険が迫ると、消防団や水防団などが危険を冒し土のうを積み上げる
今後もこうした対処療法的水防計画、水防対策でいいのだろうか?
今回、決壊が昼間だったので孤立者の多くがヘリなどで救助されたのは不幸中の幸い
しかし、これが夜間であれば深刻な人的被害を引き起こした可能性もある
過去の物差しでは測れない記録的大雨が頻発する昨今
少子高齢化を踏まえ、新たな視点の治水計画、防災対策が求められている

 
鬼怒川左岸201m決壊箇所

ドローンが撮影した応急復旧工事現場(12日午後5時)

応急工事概要(資料:国土交通省)

関東鉄道常総線・水没した軌道(南石下駅〜三妻駅間)

今回浸水した区域は常総市洪水ハザードマップの「浸水のおそれのある区域」にぴったり該当する
このハザードマップは平成21年4月に公表され、全戸に配布されており市のHPで閲覧できる
そのハザードマップを知っていて、特別警報でいち早く避難した人もいたが
特別警報が出されたにもかかわらず、市民の多くが決壊前に避難しようとしなかった
孤立してヘリで救助された男性(60)に話を聞くと
「鬼怒川は昔はよく氾濫したというが、最近は小貝川は氾濫しても鬼怒川は氾濫していない」
「だから、最近は治水技術が進んでいると思っていた。まさか堤防が決壊するとは思わなかった」
という答えが返ってきた。住民の多くが正常性バイアスにとらわれていたのではないかと思った

どれほどハザードマップを配布しても、適切に特別警報を発表し避難情報を発令しても
肝心の住民が命を守る行動を起こさないとしたら、これまでの防災対策について猛省が必要
それは、住民に対する防災知識と意識の啓発の不足という基本的かつ普遍的課題である
どれほど堤防を高くしても、それを乗り越え壊す災害は発生する
ハードも大切だが、それよりもっと大切な防災対策は
ひとり一人の心の堤防を高くすることにコストとエネルギーを傾注することである
鉄は熱いうちに打てというが鉄はすぐ冷める。意識持続のためには継続的意識啓発活動が不可欠である


鬼怒川左岸・常総市内




















 
自衛隊のヘリで救助された男性がつかまっていた電柱の根本
 
この電柱の鬼怒川側に、流されなかったと話題になった白い家があった

流されなかった白い家
川側から流れてきた家がぶつかっても壊れなかった
一方で、流れ着いた家が水流を分けてダメージを弱めたという見方もある

反対側から見た白い家

左側の白い家の堤防決壊側(右端)にガソリンスタンド(中山石油)がある
このガソリンスタンド(下図)が濁流の防波堤となって水流を分け弱めたともいわれている 
決壊した堤防から約10mに位置するガソリンスタンド
決壊堤防側の倉庫がコンクリート造りのガソリンスタンドに傾きもたれかかっていた
ガソリンスタンドの社長によると、あの倉庫が水流を左右に分けたのではという
決壊堤防際にこのガソリンスタンドがあり、その延長線にあの白い家があった

ガソリンスタンドに駐車してあった車は数百メートル流されていた

 







 



捜索活動にあたる水陸両用車


刈り入れ前の稲田全滅
 

 

 

国交省ポンプ車による小貝川への排水作業


 
全国から駆け付けたボランティアによる泥出し

 

常総市・避難指示等の対応
2015年9月9日()
16:36/常総市内に【大雨洪水警報】

9月10日()
0:20 /栃木県に【大雨特別警報】
2:20 /常総市[玉地区など]に【避難指示】
(国交省から未明に「水があふれそうだ」との連絡を受けての対応
6:00/鬼怒川の避難判断水位4.70mを超える
6:30 /国交省が鬼怒川の堤防の一部で【越水】したと発表
(自然堤防掘削の「若宮戸地区」
7:00/鬼怒川の氾濫危険水位5.30mを超える
7:45/茨城県に【大雨特別警報】
9:25/常総市[向石下、篠山]に【避難指示】
9:50/常総市[国道354号線南側の水海道元町、亀岡町など]に【避難指示】
10:30/常総市三坂町 [中三坂 上地区][中三坂 下地区]に【避難指示】
(三坂町8自治区のうち6自治区には避難指示出されず)
12:50/【鬼怒川の堤防決壊】
13:08/決壊した[上三坂地区]を含む[鬼怒川の東側の常総市全域]に【避難指示】

※常総市では「避難勧告等の判断基準・伝達マニュアル」が作成されていなかった。(来年度作成予定?)


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