霧島山・新燃岳(しんもえだけ)噴火災害・写真リポート/文・写真:山村武彦
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2011年1月19日ごろから活動が活発化した霧島山・新燃岳(1421m)
1月27日15:41・189年ぶりに爆発的噴火(マグマ噴火)が始まった
鹿児島県と宮崎県にまたがる霧島連山のうち
韓国岳(からくにだけ)と高千穂峰(たかちほのみね)の間に位置する新燃岳(しんもえだけ)
(2011年2月1日午前11時20分、上空より撮影)

爆発噴火する新燃岳(写真提供:井上博美氏/1月27日韓国岳から撮影)
爆発噴火する新燃岳(写真提供:井上博美氏/1月27日韓国岳から撮影)

新燃岳火口・溶岩ドーム(写真提供:砂防広報センター/1月31日・ヘリから撮影)

現地調査中にも「ドン」という音と共に爆発的噴火を繰り返す新燃岳(霧島市霧島町総合支所前から撮影:2月1日午後3時38分)
この日(2月1日)午前7時54分、爆発的噴火と共に今までで最大規模の「空振」が発生し、各地でガラスが割れる被害を出した
その時、火口から3.2Km離れた霧島市内に70㎝mほどの噴石が落下し、それまで半径3Kmの立ち入り禁止区域を4Kmに拡大した
過去の歴史からみると、活発な噴火活動は鎮静と活動を繰り返しながら、鎮静するまでしばらく続くものと推定されている
周辺住民生活を脅かす活動が一日も早く終息することをお祈り申し上げます/山村武彦

★空振(くうしん):火山噴火に伴う音で、人間の耳に聞こえる振動音を「爆発音」と呼び、人間の耳に聞こえにくい空気の振動音は「空振」と呼ばれる。火山が爆発的噴火を起こす際、火口附近で急激な気圧変化による空気の振動が起こり、衝撃波となって空気中を伝播する。火口から離れるほど減衰し音波となるが、瞬間的な低周波音であるため人間の耳で直接聞くことは難しい。空振が通過する際に建物の窓や壁を揺らし窓ガラスを破損させる被害が発生することもある。
霧島上空の風は、年間を通じて西から東へ吹くため、都城市、高原町などに灰が多く降る傾向にある
但し、今後風向きが変われば、霧島市や場合によっては熊本県人吉の方にも大きな影響が出る可能性がある
(霧島高原・牧場跡広場にて撮影:2月1日午後1時ころ)

筆者が前回訪れた今年1月14日には、赤土と緑の美しくも神々しい高千穂峰だったが、わずかな間に大きく変わっていた
高千穂峰は西側に位置する新燃岳からの降灰をまともに受け、自然の巧みな配色は無残な灰色に塗り替えられていた
雨が降れば、この灰が流れ渓流に集約され火山泥流や土石流発生の危険性がある
新燃岳立ち入り禁止区域だけでなく、高千穂峰周辺地域などを包含した降灰地域の警戒をを強化すべきである
(霧島市・223号線より撮影:2月1日午後)

(撮影:霧島高原・牧場跡広場/2月1日午後)
日本の活火山(108)のランクは、活動度合いをA,B,Cの3ランクに分けている
このランク付けは噴火の切迫度を示すものではないが、霧島は箱根や富士山と同じBランクであった
他の火山周辺でも、油断せず噴火時に備え知識と意識を啓発しておく必要がある

出典:霧島ジオパーク推進連絡協議会発行「KIRISHIMA GEOPARK」抜粋
★霧島山の生い立ち
 霧島山は今から約34万年前、現在のえびの市・湧水町を含む地域で大規模な噴火が発生、周辺に大量の火砕流が発生し、加久藤カルデラができた。その後(約20万年前~3万年前)、栗野岳(くりのだけ・標高1094m)などの古い火山を土台として、白鳥山(しらとりやま・標高1363m)、大浪池(おおなみいけ)や夷守岳(ひなもりだけ・標高1334m)などの火山活動により、火砕流、溶岩流などを噴出させてきた。
 約3万年前~1万7千年前、シラス台地をつくった大噴火(姶良(あいら)カルデラの噴火)により、霧島一帯にシラスが堆積する。(桜島はこの後に活動を始めた火山)。飯盛山(いいもりやま・標高846m)、甑岳(こしきだけ・標高1301m)や韓国岳(からくにだけ・標高1700m)などの火山が活動したのもこのころと推定されている。約1万7千年前~7千3百年前、韓国岳が大噴火を起こし、現在の姿形になり、南東部では古高千穂峰(こ たかちほのみね)が活動を始める。
 約7千3百年前~歴史時代、鬼界カルデラの噴火による火山灰が霧島山周辺に堆積。高千穂峰(たかちほのみね・標高1574m)がかたちづくられた後、約4600年前に御池(みいけ・標高305m)が大噴火し、大幡山(おおはたやま)や不動池(ふどういけ)でも溶岩を伴う噴火活動があった。歴史時代以降、約1500年前に活動を開始した御鉢(おはち)が成長したころ、新燃岳(しんもえだけ・標高1421m)が再び噴火をはじめ、さらにえびの高原に硫黄山(いおうやま・標高1310m)ができたといわれる。

★新燃岳の噴火
☆享保噴火

 新燃岳は、霧島火山群の中では比較的新しい火山に属し、その山体は25000年~15000年前の間にかたち作られたものとされている。火山活動は数千年間休止した後、江戸時代に活動を再開する。1716年3月11日(正徳6年2月18日)、大音響と共に水蒸気爆発を起こす。黒煙が巻きあがり、新燃岳の東方にある高崎川では泥流が発生している。1716年11月9日、夜半から再び噴火が始まった。周囲に数カ所の火口が形成され、その後発生した火砕流で山林火災を引き起こしている。負傷者31名、牛馬405頭焼死、神社仏閣住居など約600軒が焼失、多くの農業被害を出している。一連の噴火活動は約1年半続き、新燃岳の灰は遠く八丈島でも観測されている。年号が変わったあとの1717年2月7日(享保元年12月26日)から13日にかけて噴火を繰り返し、霧島山東側の広い範囲に降灰があった。2月13日9時ごろ、火砕流を伴う大規模な噴火があり、死者1名、負傷者30名などのほか、牛馬420頭焼死、周囲の田畑は10~20㎝の灰に覆われ多くの農業被害を出している。享保噴火の際、火砕流にさらされ炭化した樹木が今でも山中に残されているという。この約1年半続いた噴火活動を享保噴火と呼んでいる。
☆明和噴火 
 1771年(明和8年)から翌年にかけた噴火活動があった。水蒸気爆発、溶岩流出、火砕流流下、降灰など噴火活動は約1年間続いた。この年の4月、石垣島など八重山地方を日本最大の波高といわれる85.4mの津波が襲う「明和の大津波」(八重山津波地震)が発生している。この明和噴火と、八重山津波地震との因果関係は定かではないが、いちがいに無関係とも思えない。
☆文政噴火
 1822年1月12日(文政4年12月20日)の朝、山頂付近に白煙が観察され、夕方には水蒸気爆発を伴う大規模なマグマ噴火が発生した。14日には南側の天降川(あもりがわ)で泥流が発生。8合目付近に新しい火口が形成され、軽石や火砕流の噴出を伴う噴火が繰り返し発生した。
☆昭和噴火
 1959年(昭和34年)2月13日、小規模な爆発があった。2月17日には空振を伴う噴火が始まり黒い噴煙が上空4000mに達した。その後、数日間にわたって噴火を繰り返した後、次第に終息していった。噴出物総量は数十万トンといわれ、山頂付近のミヤマキリシマ群落に大きな被害を与えている。
☆平成噴火
 1991年(平成3年)11月13日に直下で地震が発生し、26日まで火山性地震が頻発した。12月~1992年2月にかけて火山灰の噴出を伴う小規模な噴火が発生したため、以降2004年1月30日まで登山禁止措置がとられた。その後2008年(平成20年)8月22日にも再び小規模噴火。2009年(平成21年)4月下旬から山頂火口湖の色がエメラルドグリーンから茶色に変色する現象がみられた。その後7月初めには再び元のエメラルドグリーンに戻っている。2010年(平成22年)3月30日、2008年以来の小規模な噴火が確認されたあと、断続的な火山性地震及び火山性微動があって、5月~7月にかけて火口外へ影響を及ぼさない小規模噴火が観測されいた。そして、2011年1月19日ごろから活動が活発化し、1月27日には文政噴火(1822年)以来189年ぶりのマグマ噴火が発生し、噴石、降灰などを周囲にもらせ、2月1日には空振により、旅館や役所などのガラス約100枚が割れるなどの被害を出し、2月4日現在も活発な火山活動が続いている。

上図はあくまで「災害想定マップ」である。現在顕著な溶岩流・火砕流の流出は認められていない
2月3日現在「火口から4Km以内立ち入り禁止区域指定(外側の円)」(出典:環霧島会議発行:霧島火山防災マップより抜粋)

★火山噴出物
 火山噴出物とは、火山噴火により火口から放出された火山灰、ガス、噴石、火山砕屑物(火砕物)、溶岩流、岩屑なだれなどをいう。主な大きさでいうと、火山砕屑物=64mm以上、火山礫=2mm~64mm、火山灰=2mm以下となる。火砕物のうち、気泡が多く白っぽい砕屑物を軽石、黒っぽいものをスコリアと呼んでいる。安山岩のマグマでは気泡の量により軽石にもスコリアにもなる。
☆噴煙 
 噴煙とは、火山の火口から上空に吹き上げられた火山灰やガスなどを含んだ煙状の噴出物をいう。噴煙(主に火山灰とガス)は、周囲の空気を巻き込み、その空気を火山灰の熱で暖めるので周囲より軽くそのまま上昇を続ける。空気をたくさん取り込んだ噴煙は次第に冷え、周囲の大気と密度が釣り合った高さで上昇を止め、傘が開くように横方向に広がる。火山灰はこの傘部分から落下し始めるので、火山灰の堆積物は火口を中心に丸い分布を示すが、堆積物は風下方向に厚くなる特徴がある。このような降下火山灰は谷や丘の地形でも似たような厚さで雪のように堆積する。しかも、噴煙の柱中を上昇や移動できなかった大きめの粒子が火口付近に落下するため、噴煙は火口から遠ざかるほど希薄になり、遠くなるほど堆積する火山灰は細かく、薄くなる傾向にある。堆積した火山灰層の厚さを面的に算出して、過去の噴火規模を知ることができる。
☆火山灰
 今回、御池(みいけ)地区でみた火山灰は、比較的粒子が粗く粗い砂のような感じで、車が急ブレーキをかけると雪道のように横滑りすることが多かった。麓の高原町(たかはるちょう)では、細かい灰が多かったように感じた。風向き、風力、火口からの距離などによって灰の大きさが変わっているものと思われる。


この噴火灰は弱酸性(pH5~6.2)ではあるが、このまま埋めてしまうのではもったいない。資源として利活用できないのだろうか
★ちなみにシラス(大昔に堆積した灰)は、下記のようにすでに活用されている
☆シラスブロック(軽くて硬く、空気をたくさん含み、保水力、耐久性、吸音効果が優れている)
☆シラスバルーンペイント(1000℃で瞬間過熱し発泡体の外壁塗料、熱を通しにくく、省エネ効果あり)
☆肌PIKKAN角質落とし(鹿児島の超微粒子のシラスでつくられ、保湿効果のある美容品)
☆桜島はい美人(10ミクロンのシラスでつくられた泡立ち洗顔クリーム)
☆シラスクリスタル(シラスからつくられた透明感のある美しいグラス)
☆エコクリーナー(シラスを主成分にした汚れ落とし)などのほか、石鹸、住宅用壁材などもある。
※火山灰シラスとは=約25000年ほど前に発生した火砕流の火山灰が堆積し、長い年月をかけて蓄積されたもの。ミネラル分を含み、石鹸などにも利用される。





御池(みいけ)小学校のプールも灰に埋まっていた
(ちなみに、桜島に近い鹿児島市内の小中学校のプールは、降灰対策として開閉式屋根が設置されている)

御池小学校のグランドに積もった灰

牧場・牧草も埋まった(牧場によっては牛を疎開させた農家もある)

毎日灰の清掃・高齢者には厳しい作業(灰は町はずれに穴を掘って埋却している)




避難場所には約600名の避難者・宮崎県高原町(たかはるちょう)

霧島周辺は宮崎市や鹿児島市の市街地より冷え込みは厳しい

車が通ると舞い上がる灰
鳥インフルエンザに備え、養鶏農家付近に設置された消毒マットは降灰に埋もれ、効果を発揮できなくなっている
(ちなみに鳥インフルエンザの消毒に使用される消石灰は強アルカリ性、弱酸性の灰で中和され、消毒効果が失われる)
鳥インフルエンザと噴火災害、これは間違いなく「複合災害」である。通常とは異なる支援策が必要である

マスク2万枚が「㈱宮崎ヒューマンサービス」から寄贈され、地元民から喜ばれている
(企業たるもの、かくありたいものである)

動物たちは大丈夫だろうか

木々や沢に積もった灰が降水で火山泥流となる危険性があり、警戒が必要
(過去、新燃岳の噴火後に火山泥流が発生している)



坂本竜馬とお龍さんが出かけた日本初の新婚旅行先「塩浸温泉」(しおひたしおんせん)は、現在全く問題ない
塩浸温泉:鹿児島県霧島市牧園町・新川渓谷温泉郷(電話:0995-76-0007)
1806年頃に発見され、鶴が傷を癒していたことから「鶴の湯」とも呼ばれる・単純炭酸泉、炭酸水素塩泉、泉温50℃
龍馬の湯には「鶴の湯」と「塩浸の湯」のふたつの源泉があり、入浴料大人360円、小学生140円
古くから切り傷や胃腸病に効能があるとされている。慶応2年3月17日(1866年)、西郷隆盛等の勧めで坂本龍馬・お龍夫妻が訪れた
この時、夫妻が入浴したとされる湯船が川沿いに残されている・夫妻にとってかけがえのないひと時を過ごした湯である
翌年1867年(慶応3年11月)、坂本龍馬は京都近江屋で凶刃に倒れる(享年33歳)
戊辰戦役時には負傷兵の傷を癒し一躍有名となり、薩摩藩によって道路や温泉施設が整備された
国道223号線沿い、
鹿児島空港からバスで10分。2010年に「塩浸温泉龍馬公園」として改装オープン 

塩浸温泉は川沿いにひっそりと建つ

宮崎、鹿児島の人たちに道を尋ねると、誰でもがとても誠実に対応してくれ感激する。ほんとにやさしい人たちである
口蹄疫、鳥インフルエンザ、新燃岳噴火で、まじめに暮らしてきた人たちが今、厳しい試練にさらされている
彼らには何の責任もない、すべてふってわいたような災害で、大人も子供もみんな困難に直面している
旅館ホテルなどのキャンセルもあると聞く、長期戦になる可能性もあり、農業や牧畜も影響は免れず、先行きの不安は隠せない
昔から繰り返されてきたであろう試練、先人たちもみんなそれを乗り越え乗り越えしてきたのだと思うけれど・・・痛ましい限りである
霧島連山は比較的小規模火山の集まりなので、噴火火口から離れていればさほど危険はない(危険区域は立ち入り禁止)
被災地域、住民を応援する気持ちがある人は、この地方へ観光に行くことをお勧めする、それが彼らにとって一番の励ましになるからだ
同じ時代、同じ国で生きる者同士、さりげなく、できる人ができることをさせていただきたいものである
(噴火や鳥インフルの1日も早い終息を祈りつつ)
山村武彦