2008年富山県入善町・高波(寄り回り波)災害現地調査

写真・文/山村武彦

暴風・大雪そして高波(寄り回り波)
 2008年2月24日、前日から発達した低気圧の影響で日本列島は北日本から西日本にかけて暴風、大雪などの大荒れになった。大時化の富山県射水市沖合いで漁船乗組員(72)が転落死、北海道豊浦町では雪の吹き溜まりに埋まった車内で男性(28)が排気ガスにより一酸化炭素中毒死し、猛吹雪で車150台以上が立ち往生した。新潟県佐渡市で高波のため9人が負傷、東北新幹線や航空便の運休が続出し交通機関は終日混乱した。気象庁によるとこの嵐は強い冬型の気圧配置の影響によるもので、最大瞬間風速は福島県白河34.0m、北海道釧路30.4m、宇都宮29.2m、東京都心でも26.4mを観測し関東地の春一番となった。
 富山県では黒部市で72棟が高波による床下浸水するなど住民30人が緊急避難、中でも入善町(人口27,700人)芦崎地区には同日未明から堤防を乗り越えた高波が波状的に住宅街を襲った。全壊4棟、半壊9棟、一部損壊16棟、床上浸水47棟、床下浸水建物75棟、車両26台、船舶8隻など損壊。倒壊した倉庫の下敷きになって同町の男性(87)が死亡し、重軽傷者15人など甚大な被害を出した。町は芦崎地域に避難勧告(2月28日解除)を出し、消防は時折押し寄せる高波に備え24時間体制で警戒していた。
災害救助法適用は評価するが・・・
 当初適用基準に満たないので災害救助法は適用しないとしていたが、県・町などの強い要請を受けて厚生省は3月1日、入善町に災害救助法適用を決めたと発表した。私は現地を見て、規模は小さくとも災害救助法適用に値する高波災害と位置づけていたので、厚生省の適用決定を高く評価したい。
 財政逼迫の地方自治体はどこも被災者支援や災害復興に割ける予算はほとんどない。緊急用としての特別積立金はどこの自治体も取り崩されているのが実情である。災害救助法が適用になれば国、県の支援が受けられる。なんの落ち度もなく生活してきたにもかかわらず、不条理な突然の自然災害で被害を受けた被災者にとって、全体の被災規模によって災害救助法の適、不適が決まり、それによって市町村から受ける復旧支援が異なるのはさらなる不条理である。今回はよかったが、その都度厚労省の胸三寸で変わる基準であってはならない。災害が多様化多発し、少子高齢化で地方の税収冬の時代。この際、災害救助法を抜本的に見直すべきではなかろうか。
寄り回り波
 入善町を襲い大きな被害を与えた高波は、日本海で24日未明からの風速15mを超える暴風によって北海道西方沖で発生したうねりが富山湾に押し寄せた「寄り回り波」と見られている。この付近の海底は遠浅でなく海岸近くから急激に深くなっているのが特徴で、周期の長い波は急激に浅くなった陸地に乗り上げ高波となる。季節風が吹く頃になるとこの「寄り回り波」が10回に1回は大波となって入善町周辺海岸に押し寄せることが知られている。しかし、今回のように堤防を越えて家屋を襲ったのは1950年の高波災害以来58年ぶりのことだという。
 国土交通省伏木富山港湾事務所によると、今回の高波は約14秒に1回の周期で、そこには想定以上の力が加わったのでなないかと推定している。伏木港でもケーソンとよばれる箱状のコンクリートが6個並べていた北防波堤の一部(長さ約90m)が基礎の上をずり動き、一部は傾いてしまった。2004年10月の台風23号で外側の消波ブロックの一部が崩れたことはあるが、本体ケーソンに被害が及ぶのは初めてという。今回の波高は最大7.5mで台風23号の9.9mよりは低かったが、波の周期は14秒で台風23号の9.3秒より長かった。波は周期が長いほど波の力は大きくなるが、周期と波高と暴風のベクトルが相乗効果となって襲ったのではないかと思われる。
海岸侵食
 富山湾内で顕著な被害が出たのは黒部市と入善町。ともに黒部川河口をはさんだ隣町同士である。地元住民の中には今回の高波災害要因のひとつに黒部川水系ダムによる海岸浸食を上げる人がいる。1963年に黒部ダムが竣工しその後宇奈月ダムが下流に作られた。ダムに溜まった膨大土砂は水量の多い時期に連携排砂等を行っているが、ダムなし川のように常時自然水流で土砂が排出されている川と違うように思われる。
 水量の多いときだけ流す連携排砂では排出された土砂が河口付近の海浜侵食防止には貢献しにくいのではないかといわれている。地元では「昔は堤防から波打ち際まで100mくらいもあって、夏など素足では熱砂で海までたどり着けなかった」というほどだったのが、現在は堤防から海岸線まで約10mしかないところが多い。日本海側の海岸侵食は日本海拡張の自然現象との説もあるが、ダムが影響していることも十分考えられる。もし、海から堤防までの距離が充分あったら災害にならなかっただろうし、「海岸浸食さえなければ・・・」と思う被災者の無念さも痛いほどわかる。
 私は田中康夫前長野県知事の全てのダム建設を否定する単細胞的脱ダム宣言には与しない。しかし、ひとつのメリットが結果として別のデメリットを生み出すことを視野に入れ事業は推進されるべきである。アセスメントや対策は長期的視野でのデメリットも考慮して開発を行うべきであり、今回の高波災害を精査し多角的複眼的に検証しなければならない。
そして、今を生きる者こそが将来への責任者(responsibility for the future person)という、大地からの警告を真摯にそして重く受け止めていくべきであろう。 
防災アドバイザー 山村武彦

まるで津波に襲われた町を見るようだった
堤防下から高波で4〜50m流されたコンクリート塊が入善町芦崎の住宅を襲った
黒部川河口
入善町芦崎海岸(離岸堤、消波ブロック等が延べ数百メートルにわたって流された)
海岸線から堤防をのぞむ
高波は右側の堤防、そして道路を越え、左側の住宅を襲った
流された芦崎の防潮扉(高さ約1.8m、長さ20m、重さ約4トン)
この防潮扉は1996年ごろ入善町が護岸整備事業の一環として防潮堤の一部を切り取って建設された
手動で左右にスライドさせることで開閉でき、海水浴客などのために夏場に開放している
24日午前に高波で破壊され、くの字に折れ曲がり堤防から数メートル道路を越えて押し流されていた
高波で被害を受けた家屋はこの防潮扉の周辺に集中していた
住民は「防潮堤を造らなかったらこれほど被害は出なかったのではないか」と話していた
現在は土のうとテトラポットを積んで応急措置が取られている(下図2月28日現在)
海岸沿いの公園
そして・・高波は住宅を襲った
高波が家の中を突き抜けた
最も被害の多かった入善町芦崎の入善漁港では、漁船、漁具の損傷で出漁できない漁業者が悲嘆に暮れている
芦崎地区は約330軒のうち、約30軒が沿岸漁業者
出漁できない理由はそれだけではなく、定置網、納屋の保管網、干し網などが高波で流され、それが湾や港内に沈み
漁船のスクリューに絡みつく恐れがあるためで、ダイバーによる回収作業も悪天候で進んでいない

車両26台が流され損傷

周辺はまだ断水
消防団、町職員、シルバー人材センター会員たちが家屋内外の消毒に追われていた

仮設トイレ40基が設置された

海水の流れ込んだ下水道、浄化槽等の清掃にあたるバキュームカー部隊