|
韓国・地下鉄放火事件&電車火災の教訓
電車から火が出たらどうする |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
正常性バイアス |
|
|
大邱市地下鉄・中央路駅 |
|
死者:197名(電車客室内142名・駅舎内54名(地下2階11名・地下3階39名・線路4名))負傷者147名。
死因:窒息死及び焼死
出火日時:2003年2月18日(火)9時53分(推定)・鎮火日時13時38分
出火場所:大邱広域市中区南一洞14-1-90・大邱地下鉄一号線 中央駅
出動隊:1,150名
資機材:ヘリコプター1機、消防車両222台 |
|
|
|
事件の概要(韓国・大邱地下鉄・中央路駅地下鉄火災事件)
事件は韓国南東部、ソウル、釜山に次ぐ三番目の大都市、大邱(てぐ)の中心部にある地下鉄中央路駅で発生した。
2003年2月18日午前9時52分35秒、地下鉄一号線で6両編成の1079号が中央路駅に入ったとき、車内にいた男(56歳)が停車と同時に突然引火性の液体(ペットボトル2本・ガソリン約2~4リットル)をまき、ライターで火をつけた。まず、放火犯自身の着衣と座席シート、床などに火が付き、火は一気に車内に広がっていく。
同57分、構内の通電が停止する。火災感知システムが作動し、自動的に停電になったようだ。公社の電力室は、電車を通過させようと1分後に電力再供給を試みたが、うまくいかなかったという。総合司令室との無線電話も切れた。非常灯もつかず駅全体も真っ暗になり、乗客の混乱に拍車がかかったとみられる。
火災発生から3分後の9時56分、反対線ホームに対向の1080号列車が入線してくる。通常火災が発生した場合、対向車線の列車は運転を停止し入線させないか、火災発生現場をノンストップっで通過させることが鉄則である。しかし、緊急時に管制を行う大邱広域市地下鉄公社の総合指令チームは、現場の状況を把握できていなかったため、付近の列車への運転停止命令を怠ってしまった。この地下鉄は運転士のみが乗務するワンマンシステムで、駅到着と同時に自動的にドアが開く仕組みになっていた。先に入線しいる対向車両から火災が発生しているのを確認した運転士は、類焼を避け列車を発車させようと、乗客が乗降中のドアを手動スイッチにより閉めた。その直後に列車駅舎とも停電になったため、発車もできず隣接車両の火災は瞬く間に後から入った列車に飛び火する。運転士は総合司令チームの指示を仰ぐが、司令チームはその時点でも状況の把握ができず5分を無駄にしてしまう。1080号運転士は火と黒煙にパニック状態に陥ってしまい、停電でも非常用バッテリーでドアが開くのにそれもせず、マスターキーを抜いて一人で逃げ出してしまう。マスターキーが抜かれるとすべての機能が遮断された状態になり、非常用バッテリーも使えなくなりドアは閉鎖されたままになってしまった。乗客は閉じ込められたまま炎と煙に倒れていったと思われる。死傷者の92.3%は対向列車の乗客たちであった。
こうなると災害というより人災といわざるを得ない。本来であれば、避難誘導すべき乗務員が真っ先に逃げ出してしまったことは、普段の応急マニュアルや訓練方法など、管理者側の責任も問われる可能性がある。同公社によると、韓国の地下鉄駅には換気や防火システムが消防法で義務づけられている。火災があった中央路駅には煙を感知すると自動的に排気するシステムがあり、今回も駅やトンネルにある排気口などを通じて煙を外に排出したという。
しかし車両内部は、燃えやすく有毒ガスを発生する素材(ポリウレタンフォーム、塩化ビニール、FRPなど)が多く使われているといい、今回の火災では、これが被害を大きくしたといえる。一部の乗客は座席下のコックを操作し非常ドアを開けることに成功するが、多くの乗客が煙や有毒ガスの犠牲になり、197名が死亡する。韓国の国立科学捜査研究所によると、対向列車内で142名、全体犠牲者の79%が閉じ込められたまま焼死したもlのとみられる。そこには取り返しのない運転士の不手際と逃げ遅れた人の一部にあったバイアスも影響しているとみられる。
大邱広域市消防本部は、出火の1分後の9時45分には火災発生を確知、55分に出動司令を発令し、58分には第一陣の消防隊が現場に到着している。出火の第一報は市民の携帯電話から入ったもので、出火した列車の運転士は総合司令チームへの迅速な火災報告を怠っていて、総合司令チームは火事を認知しても消防へ連絡していなかった。被害にあった乗客の多くは携帯電話で外部に連絡しており、消防本部への乗客からの携帯電話による通報は100本を超えていたという。消防本部は中央路駅近くにあり、一報を受けたときは窓から噴き出す黒煙を確認している。この黒煙が避難や救出活動に大きな障害となった。酸素ボンベを使用しても地下深度18m、移動距離160mに及ぶ地下3階ホームへの進入は困難を極めた。はじめは消火活動よりも救出活動を優先せざるを得ない状況であったので、火は燃えるままになっていた。煙突状態になった駅舎からの侵入をあきらめ、隣接駅から線路伝いに現場に到達することになる。鎮火まで3時間45分を要した。駅舎にはスプリンクラー消火設備が設置されていて、それが作動したが給水量が不足し効果は限定的でしかなかった。そのほか、消火器や消火栓が設置されていたが、それらを使って症活動された形跡はない。放火された先に入線していた車両は、後からきた対向列車の押し出す風に煽られて火勢が強まったものとみられる。火災発生と同時に機械設備司令室のモニター(受信機)には「火災発生」の表示がなされ、ベルも鳴ったが、これまでに何度も誤作動が多かったことからこの警報を無視したことも火災認知、通報などの遅れにつながっていく。(誤作動は前年1年間に90件発生していたという)
車両は韓進重工業がドイツ企業などから部品を輸入して組み立て、同公社に納入したという。車両の内壁や天井は繊維強化プラスチック製、床は塩化ビニルで覆われ、座席などにはポリウレタン材が使われていたらしい。炎がこうした素材に燃え広がり、大量の有毒ガスが噴き出した可能性がある。
韓国では1998年2月、初めて地下鉄の内装材に難燃性の素材を使うよう求める安全基準が設けられたが、火災を起こした車両は97年に製造されたもので、繊維強化プラスチックなど燃えやすい素材が使われたままだったという。
犯人は脳卒中で失職、失語症、脳梗塞、右半身まひの症状で、「脳病変障害2級」の認定を受けていた元タクシー運転手で「死にたい」が口癖の男だった。2003年8月、大邱地裁は放火犯とともに、総合司令チーム職員5名、両列車の運転士、中央路駅員1名の計8名に有罪判決を言い渡している。
日本の大都市にある地下鉄でも、いつ起きても不思議のない事件である。放火は想定外のことではなく、不特定多数が出入りする場所すべてで放火に対する備えと訓練を行う必要がある。
|
|
★教訓 |
|
現在の中央路駅(2017年8月21日・筆者撮影)
|
|
|
|
中央路駅構内には当時の柱が残されている
遺族たちが書いた犠牲者への鎮魂の言葉 |
|
|
地下には防煙マスク |
|
|
事件のあった地下3階・安心行きホーム
ホームドア、床には煙が充満しても避難経路示す蓄光表示が設置されている |
|
|
電車内には火災報知器、AED、ガラスを割るハンマー(下図)などが設置されている
車内には航空機のように、火災発生時の行動や安全設備の使い方をレクチャーする
モニターで安全行動を呼びかけている |
|
残念ながら日本の電車内には火災報知器も脱出器具もAEDもない
せめて乗客に対し火災発生時の安全行動レクチャーは日本でも必要ではないだろうか |
|
★新幹線や電車内で襲われたら・・ |
|
犠牲者とご遺族に対しご冥福とお悔やみを申し上げます
防災・危機管理アドバイザー山村武彦
|
|
|