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避難支援スイッチ(支援者スイッチ)
 

避難行動要支援者と個別避難支援計画
 災害発生時あるいは災害が迫っているとき、避難指示などの避難情報が発令されても自力で避難が困難な人を「避難行動要支援者」と呼びます。東日本大震災では障害者や高齢者など自力避難が困難な人が多数犠牲になりました。その教訓を活かし2013年に災害対策基本法(以下「災対法」)が改正され、要配慮者のうち自力での避難行動が困難で支援が必要と判断された人(以下「要支援者」)を市区町村は「避難行動要支援者名簿」(以下「要支援者名簿」)に搭載することを義務付けました(災対法第四十九条の十第一項)。それにより市区町村では要支援者名簿が作成されましたが、個別避難支援計画は作成できていませんでした。その結果、災害発生時に多くの要支援者が犠牲になってしまいました。例えば、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)の際、多くの被害を受けた岡山県倉敷市真備町では亡くなった51人のうち約8割にあたる41人は要支援者名簿に登載されていた方々でした。ほぼ全国の市区町村では要支援者名簿が作成され全体の要支援者支援計画はつくられていましたが、ひとり一人をいつ、誰(避難支援等関係者)が、どうやって支援するかを定める「個別避難支援計画」が策定されていませんでした。こうした状況を重く見た国は、2021年1月の国会で災害対策基本法を改正し「個別避難支援計画」策定を市区町村の努力義務にすることが定めました。
避難支援者と互近助(ごきんじょ)
 個別避難支援計画における避難支援者のイメージは、一般的に民生委員、福祉委員、消防団員、自治会、自主防災組織などですが、実際に災害が発生した場合又は災害の発生の恐れがある場合、全ての要支援者のご家庭に迅速に駆けつけ支援することは極めて困難です。とくに大雨・洪水・土砂災害などが発生した場合、道路、橋、通信などが損壊・支障をきたしている可能性があり、形だけの個別支援計画をつくってもそれは絵に描いた餅になってしまいます。そこで私が提唱するのが近くの人が近くの人助ける「互近助」という考え方です。遠くの親戚や防災関係者よりもいざという時頼りになるのは近くにいる人なのです。こうした考え方を地域住民が共有し向こう三軒両隣で「防災隣組」を創ることが大切です。つまり、「遠くの親戚より近くの隣人たち」で個別支援計画を立てる必要があります。
避難支援スイッチ(支援者スイッチ)とは
 いつ、誰が、どのようにして要支援者の避難行動を支援するかを定めるのが個別支援計画ですが、問題はこの「いつ」です。どのようなシチュエーションで行動を起こすのかが問題になってきます。2021年1月に大雨の警戒レベルが改定されました。従来の避難情報のうち避難勧告は廃止されました。出来るだけわかりやすいようにと、主に「高齢者避難」「避難指示」「緊急安全確保」の三段階なったのです。ここでいう「高齢者避難」の対象は、危険区域の高齢者だけでなく危険区域の避難行動要支援者も含まれます。その人たちを避難支援者が支援するタイミングが大切です。この高齢者避難情報で避難して間に合うのかどのタイミングで避難行動を開始すべきかが明確になっていませんので、私は避難支援者の避難支援スイッチを定めることを提案しています。「避難支援スイッチ(支援者スイッチ)」は、私が造った造語ですが、支援者等関係者が支援するために行動を開始する判断(タイミング)を表す言葉です。避難支援行動開始の「いつ」を地域特性に合わせ状況別の避難支援スイッチとして市区町村ごとに支援者の「命を守る行動のタイミング」を失わないように明確にことが大切です。(山村武彦

2021年1月の改定で「避難勧告」は廃止

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防災システム研究所山村武彦プロフィール阪神・淡路大震災東日本大震災災害現地調査写真レポート
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