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2019年~2020年/オーストラリア森林火災(BUSH FIRE・山火事)
現地調査写真レポート/山村武彦
犠牲者のご冥福と被災者の一日も早い生活再建をお祈り申し上げます

2020年1月5日の最高気温分布図

★過去に類を見ない広域大規模森林火災(地元ではBush Fireと呼ぶ、以下「山火事」)
 昨年9月ごろから発生したオーストラリア(以下豪州)の大規模森林火災(Bush Fire)は数年来の干ばつに加え、異常乾燥・熱波(heat wave)・強風により広い範囲で多発し延焼拡大、それに消火が追い付かず主要都市に煙害を引き起こしている。2020年1月14日現在で、112,000㎢がの森林、5,900の建物(うち2,204棟が住宅)が焼失。死者28人(うち消防士3名)。コアラ8000頭を含む約4億8000万匹の野生の哺乳類、鳥類、爬虫類が死亡した可能性があるという。豪州は毎年、10月から翌2月までがブッシュファイア‐シーズンと呼ばれるほど山火事が毎年多発している。しかし、山火事慣れした豪州の人々も今回ほど規模の大きな、そして長期にわたる山火事は初めてだという。これは地球温暖化による気候変動によるものと思われる。2019年12月17日の豪州全国平均最高気温は41.9℃、19日には南オーストラリアの最高気温は49.9℃と、それぞれ記録的高温となった。(豪州気象局)
 東京から7,800㎞離れたNSW州の出来事だが、地球温暖化による気候変動が進めば日本でも今後過去にない干ばつ、異常乾燥、熱波などにより大規模森林火災のおそれも否定できない。
 これほどの広域大規模森林火災であれば一国の消防力だけでは手に負えない。現在ニュージーランド、カナダ、シンガポール、アメリカから国際緊急消防隊が駆けつけているが日本からの派遣はまだない。大規模火災の広域国際協力が不可欠。対岸の火事ではない。緊急支援と合わせ、国内の異常気象をシミュレーションして対策や支援の在り方など研究・整備しておく必要がある


ロバート・マクニール氏(MR. Robert Mcneil)
Fire & Rescue NSW
Assistant Commissioner Regional Operations

★東日本大震災とニュー・サウス・ウェールズ州の消防隊員
 上の写真(右)は、東日本大震災(2011年)にオーストラリアから派遣された国際緊急援助隊の隊長ロバート・マクニール氏。派遣された76人の隊員全員が今回大規模森林火災に襲われているニューサウスウェールズ州(以下NSW州)の消防隊員だった。あの時、福島第一原発事故の影響をおもんばかりドイツ隊、スイス隊が途中で帰国したが、オーストラリア隊は初期の予定通り粛々と救助活動を続け、日本人を激励し続けた。活動地区は宮城県南三陸町。生存者救出はできなかったものの行方不明だった4人のご遺体を発見してくれた。
★オーストラリアの「トモダチ作戦」
 東日本大震災のとき、豪州政府は軍が保有する大型輸送機C17型機4機のうち、3機を輸送支援のため日本に投入した。緊急援助隊を日本へ輸送した1機は,その後も約10日間にわたり自衛隊の要員・物資等の輸送支援活動を担った。さらに残りの2機で福島第一原発の冷却に用いる特殊ポンプなどを豪州から輸送した。これは豪州のトモダチ作戦である。そして、1か月後の4月23日、ジュリア・ギラード豪州首相は外国首脳と市としては初めて被災地を訪問。南三陸町の避難所で支援物資と共に子供たちにコアラとカンガルーのぬいぐるみをプレゼント。子供たちからはお礼として折り鶴が贈られた。会見で首相は「日本人は不屈で勇敢、この厳しい逆境をきっと乗り越えることができる。私たちはずっと日本のみなさんと共にある」と激励してくれた。
 現地調査にあたり、NSW州消防局の重職に就いているロバート氏をまず表敬訪問した。握手の後、往時の救助活動に対する感謝の気持ちを伝えると共に、森林火災に対するお見舞いを申し上げた。ロバート氏からは今回の森林火災の厳しい状況について、参考になる意見を多数伺った。好漢である。



撮影:山村(ユーカリは毎年樹皮を脱ぎながら成長していく)
NSW州だけでなく、オーストラリアにはユーカリの木が多い
ユーカリの樹皮や葉には油性が含まれており、火が付くと強い火力となり延焼拡大する
とくに葉や芯は固く、火種を保ったままスポットファイヤーとなり強風にあおられ遠くへ飛び火する
撮影:山村(シドニー南方PICTON地区)

強風に乗って飛び火(NSW州では18㎞離れたところへの飛び火を公式に確認)
2019年12月24日・撮影:山村(シドニー南方PICTON地区)

いったん飛び火すると、そこが短時間に燃え広がっていく
出典:オーストラリア政府HP

出典:ABC NEWS
バックバーニング(Back-burning・計画焼失)作戦展開中
★バックバーニングとは?
 住宅街への延焼や水源が灰などで汚染されないように森林火災から重要リソースを守るため、火が迫らないうちにその周辺を囲むように一定幅を定め、消防隊が火をつけて燃やしてしまう作戦。豪州の先住民のアポリジニたちも実践していた大規模山火事作戦のひとつ。
 あまりにも大規模な山火事に対し、全国からの支援を受け空中消火、陸上消火などで必死の消火活動を行っているが、強風にあおられて数キロから十数キロも飛び火するため、活動は困難を極めている。そのため、本当に守らなければならないものを明確にして、迫りくる火の波を迎え撃つ最後のそして決死の作戦が「バックバーニング」(計画焼失作戦)

ニュー・サウス・ウェールズ州地方消防局司令本部/2019年12月23日・撮影:山村
モニターにはリアルタイムの現場映像などが流されていた

NSW Rurai Fire Service/2019年12月23日・撮影:山村

★バックバーニング作戦図
 NSW州地方消防隊(NSW Rurai Fire Service)の広報官よると、上図の破線内には住宅や飲料水の水源となる河川があり、ブッシュファイアから死守するエリアに指定。破線に沿って樹木を伐採したり、道路脇をブルドーザーで表土を削ったりして防火帯を設置。その上で周囲からの延焼を防ぐため、一定幅の範囲に火を着け計画焼失地帯を作っている。一方では作戦によってさらに火が拡大しないように消防隊を一定間隔で配置し、24時間体制で監視警戒している。危険なそして緊張を強いる消火活動。
ブルーマウンテンズ地域に隣接するHAZEL BROOKからの応援隊
バックバーニング作戦の監視・警戒中
2019年12月24日・撮影:山村
出典/NSW Rurai Fire Service

家族で過ごす大切なクリスマス(12月25日)の日も、彼らは現場で火と闘っていた

Fire & Rescue NSW

2019年12月24日・以下撮影:山村

山火事の煙で視界不良


シドニーだけでなく、2000㎞以上離れたニュージーランドでも煙害被害が出ている



燃え広がると、短時間に死の森と化す


これまでに約880棟の住宅が焼失












ピンク色の粉は空中消火の薬剤(リン酸アンモニウム)と思われる


山火事の煙か霧か、かすむブルーマウンテンズ・撮影:山村

スリーシスターズ(シドニーから車で90分・ブルーマウンテンズ近くの渓谷)
★豪州先住民のアポリジニに伝わる神話時代の話
 昔々、ジャミソン渓谷にガンダンガラ部族のミナイ、ウイムラ、ガネデゥという美しいジャイアントの3人姉妹が住んでいました。3人姉妹は近隣のダルク部族の3人兄弟と恋仲でしたが、昔からの掟で他の部族との結婚は固く禁じられていました。
 勇敢な3人の若者たちは姉妹の略奪を計りましたが、それが原因で部族間の戦争に発展してしまいました。戦争がはじまるとガンダンガラ族のクラジュリ(祭司)は、危険から守るために娘たちを一時的に岩に変え、戦いが終わったら元の姿に戻すつもりでした。ところがそのクラジュリ(祭司)が戦死してしまいます。その結果誰も魔法を解くことができず、3人姉妹は今でも岩のままでブルーマウンテンズのスリーシスターズ地域を見下ろしています。いつか元の美しい娘になるのをみんな待ち望んでいるという話です。
(出典:シャーロン・ブラウン ガンデュングラ部族ブラグラン集団/マーブ・トリンダル ガンデュグラ部族カウンシル議長)

ニューサウスウェールズ州(NSW)の消防博物館
NSW消防博物館/山火事との長い戦いの歴史
NSW消防博物館/森林火災に立ち向かう消防隊員


異常乾燥状態になると山火事危険度(エマージェンシーボード)で警告
HIGH以上は、バーべキューやたき火、火花の出るチェンソーなども使用禁止となる
この日は霧雨が降ったので危険度はゼロ

REUTERS

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山火事と闘っていたジェフリー・キートンとアンドリュー・オドワイアーの2人が殉職
   
ジェフリー・キートン氏(左・32歳)とアンドリュー・オドワイアー氏(右・36歳)
二人ともシドニー南方のボクストン地区からやってきたボランティア消防士/痛ましい限りである
彼らの崇高な使命感、高潔な志に心からの敬意を表し、ご冥福をお祈り申し上げます

★モリソン首相への不信感募る
 2019年12月、NSW州などで山火事が延焼拡大し、消防士たちが命がけの消火活動のさなか、モリソン首相は家族とハワイでバカンスを楽しんでいたことがわかり国民の憤激を招いている。それも自分のブログに掲載されたアロハシャツにトロピカルブーケをかぶった南国ムードの首相のポスターが国中に貼られた。その見出しには「この人行方不明!母国が火事です」「どこに行ったの?地獄ならここにあるよ」などなど。シドニーでも辞職要求デモに多数の市民が参加したという。大雨が降れば山火事は消えるが、モリソン首相への怒りの炎は当分消えそうにない。
 背景には、モリソン首相の環境問題に対する政治姿勢がある。豪州はインドネシアに次いで世界第2位の石炭輸出国。日本も両国からら年間約1.9億トンの石炭を輸入している。しかし、環境問題では石炭燃焼による温暖化ガス排出で環境汚染の元凶とされている石炭。豪州国内でも石炭輸出に依存する経済体制の改革などが求められているが、昨年、モリソン首相はクィーンズランド州でインドによる新炭鉱開発を認可。年々大規模化する山火事も地球温暖化による気候変動によるものと指摘されており、新炭鉱開発は多くの国民の反発を買っている。モリソン首相は石炭燃焼(二酸化炭素排出)が地球温暖化に影響を与えていることを明言せず、石炭産業を擁護している。また、石炭輸出依存経済からの脱却は無謀などと発言するなど、山火事対応の遅れ、ハワイ問題と合わせ環境問題からも逃げ回っている政治姿勢そのものが反発要因となっている。「山火事を引き起こし、コアラやカンガルーを殺しているのは石炭とモリソン」と、2020年1月9日にも環境対策を求める約3万人がデモ行われた。

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