平成30年北海道胆振(いぶり)東部地震
現地調査・写真レポート/文・写真:山村武彦
犠牲者のご冥福をお祈り申し上げ、被災者にお見舞い申し上げます
 

平成30年北海道胆振東部地震 概要(2018年9月20日現在) 
・発生時刻/平成30年(2018年)9月6日午前3時7分59.3秒(日本時間)
・震源/北海道胆振地方東部(北緯42度41分24秒・東経142度0分)
・発震機構/東北東・西南西方向に圧力軸を持つ逆断層型(地殻内で発生した地震)
・震源の深さ/37㎞
・地震の規模/気象庁マグニチュードM6.7
・震度5強以上の揺れを観測した地域
 震度7/厚真町 鹿沼 (北海道で初)
 震度6強/安平町、むかわ町
 震度6弱/札幌市(東区)、千歳市、日高町、平取町
 震度5強/札幌市(北区、白石区、手稲区、清田区)、江別市、恵庭市、三笠市、長沼町、苫小牧市、新冠町、新ひがか町
・津波/なし
・人的被害
 死者/41人(厚真町36人、苫小牧市1人、札幌市1人、むかわ町1人、新ひだか町1人)
 重傷/13人
 軽傷/679人
・建物被害
 全壊/126棟(札幌市51棟、厚真町44棟、北広島市13棟、安平町12棟、むかわ町6棟)
・重要施設等の被害
 室蘭市の石油コンビナート施設(新日鐵住金(株)で火災1件発生→9月6日10:26鎮火
 厚真町の火力発電所施設(苫東厚真火力発電所)で火災1件発生→9月6日10:15鎮火
 厚真町の浄水施設が土砂災害によって大規模損壊
・自衛隊
 1分後の3:09分防衛省災害対策室設置、3:25第3航空団F-2×2機が基地を離陸、3:40第7飛行隊UH-1×1機 駐屯地離陸
 自衛隊はファスト・フォースをはじめ、25,000人体制で救助活動を展開。海上自衛隊 砕氷艦「しらせ」苫小牧港入港し支援活動
 航空自衛隊は、築城基地、入間基地、百里基地、三沢基地、千歳基地から救助訓練を受けた警備犬を派遣、行方不明者捜索に当たった
・緊急消防援助隊 北海道の要請により10都道府県から陸上544隊2,119名、航空46隊339名 (20名の救助実績)
・広域緊急援助隊 警察庁は警視庁ほか8県(青森、宮城、山形、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川の各県警)の警備部隊280人を7日に派遣
・救護関係(厚生労働省関係)
 日本医師会(JMAT)3チーム、DMATに9月6日北海道がロジスティックチーム派遣要請。9月15日活動終了
 酸素供給装置の保守点検業者に対し、患者の安否確認を要請。9月14日までに7,020名全員の安全が確認された
 人工呼吸器療法提供中の72病院に対し患者の安否及び在宅人工呼吸器療法の継続確認要請。9月9日までに確認完了。
 医薬品・医療機器メーカーに対し、弾性ストッキング供給要請。厚真町200個、安平町100個、むかわ町100個22日までに配布完了。

犠牲者の大部分は土砂災害によるもの
 震源に近い厚真町の中山間地一帯で、地震発生直後に同時多発的斜面崩壊が発生。吉野地区47棟、冨里地区20棟、東和地区15棟、桜丘地区14棟、高岡地区9棟、幌内5棟などで住宅が押し流され損壊し多数の犠牲者を出した。今回の地震による犠牲者41人のうち、厚真町だけで36人に上る。そのすべてが土砂災害によるものであった。多くの土砂災害は厚真町内の約13km四方の山腹で多数発生。とくに19人が死亡した吉野地区を中心とした約5km四方に集中している。多くが土砂災害ハザードマップで危険区域や警戒区域に指定されていたが、中には指定されていない区域でも複数の住民が土砂災害で犠牲になっている。
求められる「地震土砂災害ハザードマップ」
 従来、土砂災害ハザードマップは主に大雨による被害を想定して作成されてきた。とくに土砂災害防止法に基づく警戒区域、特別警戒区域の指定要件は主に斜度30度以上、斜面の高さ5m以上、影響を受ける住宅5棟以上が目安であった。しかし、北海道大学の小山内信智特任教授などの研究グループの調査によると、斜度30度に満たない比較的緩やかな斜面でも土砂災害が発生し、斜度12度程度の斜面でも土砂災害が発生していた。
 以前から土砂災害危険区域は大地震でも危険区域となる可能性が高いとされていたが、今回のような極短周期地震動までは考慮されていない。今後は30度に満たない斜面でも、地質・地盤・地形と合わせ土砂災害を起こしやすい地震動を加味した「地震土砂災害ハザードマップ」を作成すべきではないだろうか。とくに大雨と大地震などの複合災害にも十分配慮する必要がある。
地震土砂災害と被害軽減策
 大雨の場合は事前に予告でき、避難勧告なども出しやすいが地震による土砂災害は突発的に発生するので対策が困難という議論もある。しかし、地震による土砂災害の恐れがある危険区域に住む住民には、木造2階建ての場合であれば2階を寝室とするように推奨するなど、緊急地震速報発表時の安全行動等についての事前レクチャーは必須。また、南海トラフ巨大地震で「臨時情報」が発表された場合、危険区域住民に地震土砂災害を想定して直ちに急傾斜地から離れ安全ゾーンへの避難勧告・避難指示を発令すべき。そのためにも、ハザードマップと避難勧告発令基準の見直しが早急に求められる。

次のような7つの疑問を持って9月15日~17日まで現地を回った。
1、厚真町で あれほどの同時多発土砂災害が発生したのはなぜか?
2、震源に近い住宅の窓ガラスは割れず、壁にひびも入らず損壊しなかったのはなぜか?
3、周囲の建物などの被害が少ないのに、苫東厚真火力発電所のボイラー配管が損壊したのはなぜか?
4、震源から約56kmも離れた札幌市清田区の一部で、これほどの液状化が起きたのはなぜか?
5、新千歳空港旅客ターミナルの一部が、長期閉鎖されたのはなぜか?
6、全道ブラックアウトなのに、いくつかの信号機が消えなかったのはなぜか?
7、地震災害・ブラックアウトによる風評被害が観光に与えている影響は?

被害建物と斜面崩壊の源頭部(最上部滑落崖)/出典:日経XTECH

北海道勇払郡厚真町・震度7

厚真町吉野地区/人口34人中19人死亡
山というほど高くはない山林の麓にあった住宅が・地震で崩壊した土砂と一緒に100mほど流され大破

厚真町宮里地区・新設したばかりの町立浄水場・土砂災害により損壊
(直近まで使用していた新町浄水場を復旧させ9月11日から再稼働)


厚真町吉野地区東部




崩れた斜面/地域によって異なるが、多くの地層が火山由来の軽石や火山灰・風化した粘土層など
白く見えるのが軽石層



火山噴出物等の風化地質
 同時多発土砂災害が発生した厚真町周辺には恵庭岳(1,320m)や樽前山(1,041m)がある。そうした活火山の噴出物が厚真町などに広く堆積していったものと思われる。胆振地方の6月~8月までの降水量が平年の1.8倍と多かったことと、前日まで降り続いた台風21号の雨により土壌に多量の水分を含んでいた。軽石などの火山噴出物風化地質の水分を含んだ表層地盤が極短周期地震動(下図)の激しい揺れで表層崩壊が起きたものと推定されている。
出典:防災科学研究所・強震観測網(K-NET、KiK-net)
震源付近はごく短周期地震動
  阪神・淡路大震災の速度応答スペクトルは1~2秒の周期が卓越していて家が壊れやすい揺れ方だった。胆振東部地震では震源付近(追分)で卓越していたのは0.5/秒のごく短周期の揺れであった。この揺れ方の特徴は比較的小さな構造物を大きく揺する力を持っていて、大規模な土砂災害や液状化などの地盤災害は、こうしたごく短周期の揺れが一定時間続くことで拡大した可能性がある。0.5秒の周期の細かい揺れ、震源に近い厚真町山林一帯を激しく揺らし斜面の崩れやすい地盤が崩壊したと思われる。他方、震源から少し離れていると思われる地域(早来)のややゆったりとした揺れは、阪神・淡路大震災の揺れ方に似て、固有周期1秒程度の構造部(木造家屋など)への影響が大きかっ多と推定されている。

震度7を記録した吉野町の住宅はガラスも割れていない
 隣家が斜面崩壊で損壊するも、この家を含む周辺住宅ではガラスも割れず壁にひびもない建物が多かった。震源に近く、土砂災害を発生させるほどの揺れにもかかわらず、建物が損壊していないのは、阪神・淡路大震災や熊本地震と異なる極短周期地震動だったものと推定されている。下の写真は厚真町の中心街だが、極めて耐震性が低い古い一部建物の損壊や一部住宅における壁の剥落やクラックは見られるものの、地震による甚大な建物損壊は少ない。ただ、建物損壊はなかった家でも家具などが多数が倒れ室内は足の踏み場もないほど生活用品が散乱していた。

ハスカップの町・厚真町役場もガラスが割れていないように見える

道産子は優しい

札幌から厚真町にボランティアマッサージ


土砂災害現場以外での道路損壊箇所は思ったより少ない
山間地にいくつかの亀裂


★札幌市清田区で大規模な液状化(側方流動)現象発生
地震直後から大量の土砂と水が噴き出し、道路・公園などが陥没、多数の住宅が傾き、水道管損壊など甚大被害となった。

札幌市の「液状化危険図」〇印=清田区の液状化エリア


 清田区(人口114,768人)は、札幌市の南東部に位置し、震源地から約60㎞以上離れている。地震の揺れは震度5強程度。地名の由来は厚別川沿いの低地に広がる清らかな水田地帯という意味から命名とされている。被害の多かったのは清田区里塚1条1丁目から3丁目の一部地域、清田区清田7条2丁目から3丁目の一部地域。地域の住民は「地震の揺れで目を覚ましたが、横揺れのような揺れだったが地鳴りのようなゴーという音、ザーという音が入り交じって。そのうち家ごと傾いた」と言っていた。
 以前この地域は谷筋に3本の川が流れ周辺は田んぼとなっていた。そこを1980年ごろに造成・分譲されたという。2003年の十勝沖地震でも今夏より規模は小さいが陥没や流動、構造物の傾きなど液状化現象が見られた。その時は震源地から遠く離れていて震度4程度の揺れであったが、一部の電柱が傾き土砂が噴出した。
 北海道大学の渡部要一教授(地盤工学)は、2003年当時現地を調査していた。その時も複数の陥没や隆起土砂噴出を目撃している。渡部教授は「かつて田んぼの間を川が流れていて、被害が多かった住宅街や公園は以前流れていた川沿いに集中している」という。
「液状化による流動化した地盤が、土砂となって川に沿って地下で動き、それが一気に地上にあふれた。さらに、そこに水道管の破裂によって生じた水が加わったことで泥水が道路を冠水させたと考える」「もし、この仮説通りの液状化が起こっているとすれば、土砂が流れ出た後の地下地盤が空洞化している可能性があり、現場周辺では陥没などの地盤の変化を注意深く見守る必要がある」と話している。
 これまで液状化の現場を見て思うことは、地盤は何かあれば過去の地形に戻りたがるということである。建物を建てる場合、過去の地形・地盤・地質・造成方法など、地歴を確認しリスクがあれば事前の防災対策が不可欠。液状化は同じ場所で地震が起きるたびに繰り返し起きる事が知られている。そうした液状化危険区域においても、地盤の締め固め、地盤改良・地盤補強など技術も進化しており対策は可能。今までの「逃げる・守る防災」から、完全は無理でも「少しでも安全な場所に住む(する)防災」が求められている。

今も地下水が湧き出している所もある

住民説明会開催
 地震発生から1週間後の9月13日夜、非公開で開催された説明会には被災住民約500人と札幌市職員、清田区長などが参加した。札幌市は液状化した土地のボーリング調査を行うなど支援策を決めるのに3か月程かかるなどと説明。参加した住民からは「雨や余震でさらに状況が悪化する危険性はないか」「時間がたてば雪が降り、対応は来年に持ち越されるのでは」「いつ、誰が、どこまで、何をしてくれるのか聞きたい」などの懸念や質問が多かった。 市側の回答は「調査しなければ何もわかりません」などの返答に「何しに来たんだ!」などの怒号が飛んだという。
 説明会に出席したIさんの自宅は応急危険度判定で黄色ステッカーが貼られたが、室内の床はかなり傾いていてしばらくいると体調が悪くなりそうな状況。Iさんは「大まかな方向性、タイムスケジュールなど何一つ具体的な説明がなかった」と落胆気味。「地域と被害者全体が結束して対応すべきだろうが、それぞれの状況が異なっていてまとまって行動するのはむつかしいかもしれない。うちはとりあえず傾きを直してここに住もうと思っている」と話す。地震直後の傾きと比べると、最近は傾きが増したのが歴然としているので早く応急工事を進めたい。ただ、市の対応が分からないのでその工事を始めていいのか判断しかねてるという。札幌市は33か所のボーリングなどの調査を行って現状を把握したあと方向性を打ち出すといわれている。

★応急危険度判定で85棟に赤色ステッカー
 9月9日から市の職員などによる応急危険度判定で、倒壊の危険(立ち入り危険の赤色ステッカー)と判定された建物は85棟に上る。十分な注意を促す黄色ステッカーが88棟、被害程度が小さく建物への使用可能の緑のステッカーが366棟に貼られた。余震のたびに傾きが大きくなったり段差が広がっていると訴える住民もいる、とりあえずはつっかい棒など現状悪化を防ぐための応急措置が必要ではないだろうか。地震後10日を経ているにも関わらず現場の一部では汚水が溜まり悪臭を放っている場所も放置されたまま。安倍首相も道知事と一緒に現場を訪れたが、たった5分ほど入り口付近を見て帰って行ったそうだ。総裁選の真っただ中、厚真地区にも回るので時間がタイトだったと思われるが、被災者の不安や応急対応について「自治会長の話すら聞いていかなかった」と憤慨する住民もいた。先行きの見えない状況で住民は焦燥もありナーバスにならざるを得ないのかもしれない。



一部で滞留する汚水が悪臭を放つ
 上水道が損壊し水が大量に噴出した箇所は修復されているが、下水管の一部は補修されていない可能性がある。緑ステッカーが貼られている家ではトイレや汚水を流しているが、低地には猛烈な悪臭のする汚水が溜まっている箇所(下の写真)があった。この地域にはまだ仮設トイレが設置されていない。地震や液状化で下水管損壊の恐れがある場合は、安全が確認できるまでトイレなどを流すのを控えるか禁止することが必要。住民に話を聴いた範囲ではそうした指示はないという。
悪臭放つ低地の汚水


平らだった公園内に陥没や隆起が見られジャングルジムが大きく傾いた



札幌市の説明によると、旧水路を埋め立てた場所で液状化が発生

傾いてカギがかけられない
 真ん中のお宅は倒壊の危険と判定され、避難所の体育館で避難生活を送っていたが、建物が傾いて鍵がかけられなかったので、泥棒に入られたという。
近くに住む人は黄色ステッカーが貼られていて、床が約25cm傾いているが、防犯上も怖くて家を離れられないと話している。警察官が24時間態勢で警備に当たっているが、巡回のすきを狙っての犯行もあるという。

液状化現象が起きても人的被害は少ない。しかし、土地や建物の価値は一気に低下して経済的損失は極めて甚大となる
液状化の恐れのある地域の建物には、今のうちに地震保険の加入をお勧めしたい
また、液状化災害で甚大被害を受けた被災者への支援は義援金が一番喜ばれる/日赤義援金

地盤がずれ、土砂に埋まった

★会社挙げて炊き出しボランティア
 
被災地には多くのボランティアが駆けつけている。とく9月15日~17日の3連休を利用し会社員や教職員などが泥出しや片づけなどに汗を流していた。帯広に本社を持つ宮坂建設工業株式会社(宮坂寿文社長)の社員たち22人は、被害の多かった厚真町で昼と夜1日2回、豚汁、豚丼、カレー、うどんなど約3000食の炊き出しを行った。宮坂建設工業は厚真町とは仕事の付合いもあり、帯広や札幌から参加者を募り14日~17日までの4日間機材を持ち込みボランティア活動を行った。
 陣頭指揮を執っていた武山 純 総務部長(上の写真)は「大変な被害を出した厚真町の皆さんを少しでも励ますことができたらと思って駆けつけました。町民からの『美味しかった』『ありがとう』の言葉でこちらの方が元気をもらっています」と話していた。
 同社は24時間防災体制を敷き、災害時の復旧工事など迅速な緊急対応を可能にし各方面から高い評価を受けている。また、平成15年の十勝沖地震を機に地域住民参加型防災訓練を帯広や札幌で開催し、昨年も2会場で住民など5,000人が参加。こうした地域防災訓練や広島土砂災害支援、親子防災教室などの活動が評価され「防災功労者防災担当大臣賞」を受賞している。建設会社での受賞は国内初。

北海道電力本社ビル




空っぽになった懐中電灯や電池の棚(地震10日後の札幌のホームセンター)

観光産業への影響
 昼時を過ぎたとはいえ日曜・午後2時のラーメン横丁(上図)、地震後は閑古鳥が鳴いている。
北海道の集計によると、現時点で地震後の宿泊客キャンセルは94万人で被害額は292億円に上るという。今回の地震は局所的であり、被害も一部地域が甚大ではあるが全体としては被害規模の少ない災害。ブラックアプトが約1日半続いたが、その後は電力も安定供給され札幌をはじめ多くの観光地は元気に営業している。風評被害に惑わされず、一番いい季節を迎えるこの時に、北海道を励ますためにも是非美しい北の大地と美味しい食べ物をたのしみに出かけてほしい。

休日の12時・二条市場の人影もまばら

いつもはごった返す札幌中央市場店内は店員が手持無沙汰にしていた

新千歳空港の照明は約20%落として節電中

新千歳空港旅客ターミナルビルの2階に上がるエスカレーターに掲げられた張り紙の文面
 新千歳空港旅客ターミナルビルの物販店舗は、このたびの地震により店舗エリアの消防用設備(スプリンクラー設備)の障害が広範囲で発生し、障害個所の特定や修復に時間を要するため、営業を休止せざるを得ない状況となっております。何卒ご理解を賜りますよう謹んでお願い申し上げます。対象施設:国内線旅客ターミナルビル 飲食店/国際線旅客ターミナルビル 物販店・飲食店、新千歳空港ターミナルビルディング株式会社

消防用設備の耐震化急務
 東日本大震災で被災3県(宮城・岩手・福島)において、大規模建築物(防火管理対象物)の約26%でスプリンクラー消火設備の破損により水損などの被害が発生した。震源から遠く離れた大阪府第二庁舎(WTCビル)、イオン富士宮(静岡)、ハマボウル(横浜)、東京都庁、資生堂久喜工場、成田空港、福島競馬場、宮城県庁舎、JR仙台駅、JR大宮駅などのスプリンクラー消火設備も損壊。天井から大量の水が散水され水浸しになるだけでなく、サーバーやパソコンなどのOA機器などの水損を招いた。
 本来は火災発生時に自動消火する強い味方だが、地震の揺れによって損壊してしまい水損被害を与えてしまうのは極めて残念。スプリンクラー消火設備は、ポンプ室を経て各階の配管でつながっているが、各階配管から分岐された短管は室内の天井に開けられた穴の先に取り付けられたスプリンクラーヘッドへと繋がっている。閉鎖型の場合、スプリンクラーヘッドまでは一定の水圧がかかっており、ヘッドのヒューズが一定温度で溶けると一気に水が噴き出し、配管内の水圧が下がると圧力スイッチが起動しポンプを作動させ、水を噴霧し続けて消火する仕組み。
 地震発生時は建物と一緒に天井も揺れるが、吊りボルトなどで固定されている配管も揺れる。その際、天井の揺れと配管の揺れ周期が異なると短管やヘッドが損壊し水が大量に放出されてしまう。水量は1分間約90リットル以上なので2~3分でドラム缶(200㍑)1本分の水量となり、アラームバルブなどで閉鎖作業をしない限り水は放出し続け大規模水損となってしまう。この短管を可撓管に換えるなど対策をとれば避けられるので、東日本大震災以降改善を進めた施設も多い。
 とくに、空港などの不特定の人が出入りする施設の場合、水損だけでなく消火設備が復旧しないと業務は再開できなくなるため、事業継続の観点からも消防用設備の耐震化は急務である。

ブラックアウトでも消えなかった信号機があった
 全道ブラックアウトにもかかわらず、いくつかの交差点・信号機が点灯していたのは、重要交差点には信号機用の非常電源があったからである。阪神・淡路大震災で試験用に設置されていた非常電源が活躍しクローズアップされた。大規模災害時に信号機が点灯していることでの人心安定と交通混乱防止の重要性が認識された。以降、警察庁は全国の警察本部と協力し交通信号機用非常電源の設置を推進してきた。東日本大震災や東北豪雪などの停電時にも活躍した。正式には「自動起動式信号機電源付加装置」と呼ばれるが、ディーゼルエンジン式発電機で燃料は軽油、連続約48時間運転が可能。停電時における救助活動など必要な電源が取れるコンセントも付加されている。
 警察庁によると、全国の重要交差点5,617か所(平成27年現在)、道内にも911か所設置されていて地震後のブラックアウトでも自動的に起動し信号機を点灯させ、交通混乱を防ぐ役割を果たしている。

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防災システム研究所山村武彦プロフィール阪神・淡路大震災東日本大震災災害現地調査写真レポート