2018年大阪北部地震 |
1週間目の現地調査・写真レポート/文・写真:山村武彦 |
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住家被害のうち「全半壊」は極めて少なく、全体の99.6%が「一部損壊」 (2018年6月25日/大阪府茨木市役所10階から撮影) |
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★極短周期の揺れ 今回の地震は揺れ継続時間が短時間で、地震波の周期(1秒当たりの周期)で卓越していたのは約0.1~0.5秒の極短周期地震動。0.5秒以下の「極短周期」の場合、家屋倒壊は少なく、屋根瓦がずれたり落下したり、ブロック塀倒壊・崩壊、家具が転倒しやすい揺れ。この地震で亡くなった4人の内訳が物語っている。2人はブロック塀と石塀の倒壊によるもの、もう1人は家具転倒によるものであった。(男性1人の死因は不明) 筑波大の境有紀教授(地震防災工学)が防災科学技術研究所などの観測データから地震波分析を行ったところ、阪神・淡路大震災や熊本地震と比較した場合、1秒~2秒の周期は少なく、主に観測されたのは極短周期。境教授によると、浅い震源でM6.1程度の地震はこうした極短周期が出やすいという 熊本地震(2016年)や阪神・淡路大震災(1995年)で卓越していたのは1秒~2秒の周期の揺れで、この揺れ方は中低層建物が倒壊しやすい揺れ方。そのため、阪神・淡路大震災では亡くなった人の80%以上が建物の下敷きによるものであった。今回の地震は全半壊が少なく、住家被害のうち99.6%が一部損壊だったことを受け、自治体は罹災証明手続きの簡素化を図った。大阪府内で罹災証明書に記載する住宅の被害認定を「自己判定方式」とすることになり罹災証明が当日発行できるようになった。「自己判定方式」とは、熊本地震でも採用されたが「一部損壊」の申告に限り、住民が自宅外観や被害部分を撮影した写真で認定する方式。こうした自治体の臨機応変対応を評価したい。一方で、これだけ屋根瓦の一部損壊があれば、大きな地震でなくてもさらに瓦落下の危険が増していることに留意すべき。地震の揺れ方によって被害状況や地震発生時の「命を守る行動」、その後の「被災者支援」「注意喚起」も大きく変わってくる。今回の地震は普遍の防災原則として、壁・ブロック塀の耐震チェック、家具電化品の固定、防災安全ガラスの普及がいかに重要かを再認識させた。 阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、そして今回の地震、災害はどれも同じではなく、その都度違う顔(様相)を持っている。特定の災害だけを教訓にして詳細マニュアルを作成してしまうと、次の災害には活用できない可能性がある。過去発生した多くの災害現場を複眼的に検証し学び、これからの災害(事象)を洞察しつつ共通の法則を見出す努力が欠かせない。私は過去50年以上災害現場を回ってきたが、これが正しいといい切れる防災対策に未だたどり着いておらず、現場に行くたびに忸怩たる思いと悔悟の念を禁じ得ない。 |
★被害概要(2018年7月2日現在/消防庁) ●死者:4人 ・大阪市において、80歳男性が、ブロック塀の崩落に巻き込まれ死亡 ・高槻市において、9歳女児が、ブロック塀の崩落に巻き込まれ死亡 ・茨木市において、85歳男性が、本棚の下敷きになり死亡 ・高槻市において、66歳男性の死亡を確認(死因は不明) ※犠牲者のご冥福と、被災者に心よりお見舞い申し上げます。 ●負傷者:428人(うち重傷15人) ●火災:7件(大阪市3件、尼崎市4件) ●住家被害 ・全壊:6棟 ・半壊:57棟 ・一部損壊:23,544棟(全体の99.6%) ●重要施設等の被害/石油コンビナート等特別防災区域に被害情報は無し |
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あれから一週間、二度と戻らぬ若い命を悼む姿が絶えない |
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出典:共同通信 |
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★大人の無知が招いた人災 地震発生時、向こう側から手前の校門に向かって左側の歩道・通学路を歩いてきた寿栄小学校4年生の三宅璃奈さん(9)が、地震で倒壊したブロック塀の下敷きとなり死亡。通学路が車道沿いのためグリーンベルトを歩くよう指導されていたという。このブロック塀は3年前に防災アドバイザーから危険と指摘され、校長から教育委員会に伝えられていた。点検に来た教育委員会担当者が点検し、安全と判断したという。この担当者は建築関係の資格は持っていなかった。 |
道路と歩道は学校のプールと川を挟んで住宅街に面している。当初、周辺は田んぼと畑だったが、徐々に住宅が建設されるようになった。とくに川を挟んで3階建ての建物が建築されてからはプールが丸見えになったため、目隠しとして既存のブロック塀(1.9m)の上にさらに8段積み重ね、1.6mのブロック塀が継ぎ足された。合計高さ3.5mは、高さ制限(2.2m以下)に違反しているだけでなく、控え壁がなく適正に鉄筋が入っていなかった。教育委員会ではこのブロック塀が建築基準法不適合の認識がなかったという。対策さえしてあれば璃奈さんは犠牲にならずに済んだはず。教育する側の大人の無知が招いた人災だという住民の声は重い。痛ましい限りである。 |
寿栄小学校の周囲はこうしたフェンスで囲まれていて プール周辺だけがブロック塀が積まれていた |
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寿栄小学校に隣接するコミュニティセンターに避難所開設 |
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★ブロック塀崩壊・ボランティア男性(80歳)死亡 大阪市東淀川区上新庄2丁目では、地震によりブロック塀が崩壊し通学路など交通安全と防犯を兼ねたボランティア「新庄小学校区はぐくみネット/こども見守り隊」の安井 實さん(80歳)が死亡した。 |
塀は土台石の上に約1.4mほど5、6段ほどブロックがが積まれていて地面から約2mほどの高さだったという。この塀は阪神・淡路大震災(1995年)で上部が破損したものの、その部分だけを補修しただけで鉄筋は入っていなかった。地震当日、安井さんは仲間の福島さんと一緒に東淀川区立新庄小学校近くの持ち場に向かう途中だった。ほかの人たちが駆けつけたとき、福島さんも足を挟まれていたが「安井さん!安井さん!」と大声を上げていたという。福島さんは足を骨折・打撲などで重傷を負って入院中。 |
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「こども見守り隊」は今日も通学路で活動 |
★子供見守り隊 ブロック塀の下敷きになった安井さんのお仲間の清水さん(78歳)は、「安井さんは『こどもたちは地域と国の宝もの』といつも言っていて、20年以上ずっと子供たちを見守ってきた大先輩。最近は足が少し不自由だということで杖をついていたけど元気に活動していて、我々の模範的な人でした」「立派なかけがえのない人を失って本当に残念、悔しい」と話していた。そして、安井さんの思いを胸に刻んで、これからも見守りを続けていきたいとおっしゃっていた。みなさんの使命感に頭が下がる。 |
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安井さんが見守っていた新庄小学校の通学路。新庄小学校は震災などの災害時には避難所となっているため、この道路は避難路にもなる。 |
通学路だけでなく、避難経路の安全確認が必要 |
新庄小学校の隣の神社では石灯篭が倒れていた |
通学路には石塀やブロック塀だけでなく、自販機や古い瓦屋根も多数ある 自販機の耐震性は震度6弱程度。震度6強で転倒する危険性がある |
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茨木神社 |
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茨木市役所南館 |
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NPOレスキューアシストの中島武志さん |
建築関係のプロが集まったボランティア。彼らは高所のブルーシート掛けなど高齢者では困難な作業や彼らの技術を生かした活動を実施している。 |
集まった仲間にオリエンテーションをして事故防止対策も行う |
浜松市から駆け付けた瓦職人ボランティアと社協のコラボレーション 屋根瓦の落ちた高齢者宅を回って相談に乗り、緊急性が高い場合その場で作業もする。 |
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★どの断層が動いたか?まとまらない専門家の見解 地震調査委員会は、東西方向に圧縮軸を持ち、地殻内で発生したと推定していて、その後の地震活動は約5㎞四方のエリアで続いている。エリアの北側では逆断層型、南側では横ずれ断層型余震が発生していると分析している。 |
地震発生当日6月18日の午後、政府の地震調査委員会(委員長:平田直東京大学地震研究所教授)は、大阪府北部で発生した地震を受けて臨時会合を開催。原因や今後の見通しなどを議論したが、地震を引き起こした断層を特定するに至らず統一見解はまとまらなかった |
今回の地震の震央や震源域周辺には、兵庫県神戸市北区から大阪府高槻市にかけて東西に延びる有馬―高槻断層帯(長さ55㎞)のほか、大阪府内を南北に延びる生駒断層帯(長さ38㎞)や上町断層帯(長さ42㎞)などが存在する。これらの断層帯が地震に関係したとみられるものの、平田委員長は「活断層が多く密度も高い。どの断層が動いたから地震が起こったとは言えない」と記者会見で語った。委員会としては今後の調査観測結果などを踏まえ、さらに検討していく方針。
一方、産業技術総合研究所地質調査総合センターによると、今回の震央は有馬―高槻断層帯の東端や生駒断層帯の北端付近にある。上町断層帯からは離れているように見えるが、同断層帯は斜めに沈み込んでいるので、深さ13kmの地下で震源となった可能性は捨てきれないとしている。 もし、想定される上町断層帯地震(M7.5)が発生すれば、大阪は壊滅的被害になると想定されている。 |
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★想定外? 今回の地震は通勤・通学のラッシュ時を直撃したため、立ち往生した電車の中に閉じ込められたり帰宅困難者が多数発生した。ただ、東日本大震災のときは午後2時46分の大規模な地震だったため、ほとんどが社内や校内にいた人が多かった。今回発生した午前7時58分という時間帯では、社内や校内にいた人は少なくほとんどが通勤通学途上にいた。そのため、長期に電車が運行を見合わせていたため駅など滞留し、タクシーを待つ行列が長く続いた。安全確認に時間がかかった鉄道会社が想定外だったとしたのは・・・ ●安全確認要員が渋滞に巻き込まれたのが想定外? 一定加速度(震度4.5程度)を観測した場合、ルールで保安要員が徒歩(目視)で線路、架線、法面、橋梁などの安全確認を行うことになっている。しかし、その保安要員が緊急参集しようとしたり、持ち場の保線区に向かおうとしたら、あちこちの道路が通行止めや渋滞で参集に時間がかかったのが想定外だったとしていた。しかし、災害が発生すれば、道路の渋滞は容易に想定できるはずである。車でなく、自転車やバイクでの移動や参集も考えるべきだったのではなかろうか。 ●ガス復旧を妨げた想定外? ガス会社は懸命に復旧作業を行い、ほぼ1週間で全域のガス供給が再開された。管路だけでなく、各家庭内の安全確認をするガス復旧はマンパワー投入だけでなく様々な阻害要因が伴う。そうした中で大阪ガスによる「1週間でほぼ全復旧」は一定評価すべき。一方で復旧の妨げになったのが多数の留守宅が要因の一つだったという。しかし、災害発生時だけでなく、平時でも一定数の留守宅は存在するはずである。とくに災害発生時は多くの帰宅困難者が帰りたくても帰れない状況に陥る。こうした留守宅の安全確認などに新技術の開発導入など事前に講じておく必要があるのでは。被災地だけでなく全国の事業者にもこの教訓が共有されることを期待したい。 ★マニュアルやBCPの再点検必須 地震から1週間目の6月25日に現地に入った。被害が多かったという高槻市では「茨木市の方が被害が多かったのでは」と言われ、茨木市へ行くと「高槻市の方が大変だろう」と言われた。今回の地震は、局所的に痛ましい犠牲者を出したものの全体としては規模の小さな地震であった。しかし、それでも多くの教訓や課題が顕在化した災害である。私は「想定外とは想定できることを想定しなかったものの言い訳」と思うことがある。今回の地震は規模は小さくとも、懸念される南海トラフ巨大地震や首都直下地震などに対する大地からの警告ととらえている。通学路だけでなくブロック塀や自販機などの安全対策は国を挙げて改善する必要がある。想定外と言わないために、実戦的な事前準備と対策が急務。いま従来のマニュアル、BCP(事業継続計画)が本当に使えるのか再点検が求められている。 |