糸魚川大火防災システム研究所公式ホームページ現地調査写真レポート
 
令和4年(2022年)4月、8月 旦過市場火災 連続火災 現地調査 写真レポート
(文・写真:山村武彦)

4月に続いて出火した旦過市場/2022.8.10夜(出典:共同)

旦過市場/JR鹿児島本線小倉駅から徒歩10分、北九州モノレール旦過駅徒歩1分

2022年4月焼失店舗42軒(1924㎡焼失)、2022年8月10日焼失店舗約40軒(約2000㎡焼失)
出典/西日本新聞(8月11日午前8時39分)

4月大規模火災の約4か月後、8月10日午後8時50分ごろ、再び旦過市場から出火
火災概要
〇 火災発生場所/小倉北区魚町四丁目2番、4番
〇 覚知日時/令和4年8月10日(水)20時54分
〇 延焼阻止/8月11日(木)01時37分
〇 火勢鎮圧/8月11日(木)02時00分
〇 鎮火/8月11日(木)19時00分
〇 焼失面積/約3,300平方メートル
〇 被災店舗/約45軒
初期消火の失敗
 2日後の現場で聞き取り調査をすると、出火元の飲食店関係者が「天ぷら鍋に油凝固剤を投入したあと加熱し、その場を離れ洗い物をしていて、気づいたら炎上していて、消そうとしたが消えなかった」と話したという(消火器を探したが見当たらなかったという情報もある)。4月の大規模火災も飲食店のガスこんろ付近から出火とされている。4月火災のあとの消防査察で、各店舗ごとの消火器設置は確認済と発表されている。
 従来、消火器などの「消火器具設置基準」は、消防法施行令別表第1(3)項(飲食店等)に掲げる防火対象物で延べ面積が150㎡以上とされてきた。それが2016年糸魚川大規模火災の後、消防法施行令が改正され、延べ面積150㎡未満のもののうち、火を使用する設備又は器具(防火上有効な措置として総務省令で定める措置が講じられたものを除く)を設けたものが追加された。つまり、小規模飲食店でも「消火器具」の設置義務が課せられている。そして、政令で定める消防用設備等の一部は、法令改正前の防火対象物でも遡及適用されることになっている。旦過市場4月火災の後も、今回も焼け残った市場内を回ってみたが、店舗だけでなく、路地の柱などにも歩行距離約10~20メートル間隔で商店組合などにより消火器が設置されていたので、消火器が見当たらないということはなかったと思う。
初期消火実施率の傾向
 総務省消防庁によると、飲食店の火災は比較的小規模の店舗で発生する傾向にあり、小規模飲食店では、消火器などによる初期消火実施率がそれ以外の店舗と比較して低い傾向にある。例えば150平方メートル以上の飲食店の初期消火率が72.0%に対し、150平方メートル未満の飲食店の初期消火率は65.4%となっている。そして、実際に初期消火が実施されても有効に消火できなかった割合を飲食店における出火原因別で見ると、こんろ火災の場合、有効に消火できなかった割合は67.1%に上る。つまり、小規模飲食店の場合、初期消火実施率が低く、実施した場合でも有効に消火できなかったケースが多いということになり、理由の多くが発見の遅れが挙げられている。人が発見して、人が通報して、人が消すことは重要だが、人は万能ではないとしたら、一人一人の注意・警戒・行動能力の向上を図るとともに、フェールセーフとして人を補完するシステムの構築が不可欠となる。
消防直結火災通報装置
 旦過市場には、煙感知器連動の消防直結火災通報装置が設置されていて、今回も作動し自動的に消防に通報できた。しかし、そのシステムからの通報より前に、利用客とみられる人からの「天ぷら鍋から火が出た」という119番通報の方が早かったという。ということは、出火直後に通報があったことになるので、かなり迅速な火災通報がなされたものと推測できる。にもかかわらず延焼阻止まで3時間43分、鎮火まで約22時間かかっている。4月の火災時は鎮火までに60時間以上かかった事からすれば早かったとも言える。前回の火災を教訓に、北九州消防局は消火活動の妨げになるトタン板撤去などに建設機械も投入したことが功を奏したのかもしれない。そして、これだけの火災でありながら人的被害ゼロが不幸中の幸いである。
業務用こんろにもSiセンサー搭載が必須
 今回も4月の時と同様に、地元テレビ局の要請で火災発生2日目に現地に入った。そこで見たのは市場入り口に山と積まれた黒焦げになった無残な家屋の残骸だった。4月火災の出火原因は正式に発表されていないが、新旦過横丁付近の飲食店内のこんろ付近とみられている。令和3年度版の消防白書によると、全火災の8.09%を「こんろ火災」が占め、種別では「ガスこんろ火災」が2,359件と最も多く、その半数は「消し忘れ」という。
 しかし、全体として「こんろ火災」の発生件数は減少傾向にある。2007年(4,506件)に比べ、2021年(2,792件)は40%減となっている。激減要因は2008年10月に改正・施行された「ガス事業法」及び「液化石油ガスの保安の適正化に関する法律」にある。それ以降製造される全ての家庭用こんろバーナーに「調理油過熱防止装置」「立ち消え安全装置」「こんろ消し忘れ安全装置」の搭載が義務付けられたからだ。それまでのこんろ火災の多くが調理油過熱(天ぷら火災)が主原因だったが、改正法令施行により、Siセンサーと呼ばれる安全装置が標準装備された家庭用こんろは、鍋底の温度を検知し油温を約250℃に保つように自動的に火力を調整し油の発火を防止、吹きこぼれて火が消えても自動的にガスを止め、万一消し忘れても一定時間で自動消火する。という優れた機能がついたのだ。その結果、2008年10月以降、家庭のこんろ火災は劇的に半減していく(新規格こんろの普及率が上がれば、さらにこんろ火災は減少する)
 家庭のこんろ火災激減に対し、Siセンサー搭載が義務付けられていない業務用こんろからの火災は、今も増加もしくは横ばい状態が続いている。飲食店における火災の出火原因第1位は「こんろ火災」が全体の4割を占め、その約6割は「点火放置」又は「消し忘れ」などで、こんろや使用火気から人が離れている間に出火するので、発見が遅れ気味、気付いた時は初期消火不能状態に陥っていることが多く、短時間に延焼拡大しやすい傾向にある。火力の強い業務用ガスこんろにSiセンサー搭載が義務付けられていない理由は、Siセンサーを取り付けると火力が弱くなる可能性があり、調理の時間や微妙な火加減の調整ができないとする業界などからの反対があって義務化されていないという。
 しかし、糸魚川大規模火災を引き起こした中華料理店も、旦過市場火災の出火元となった飲食店も、もし使用していた業務用ガスこんろにSiセンサーが搭載されていれば、出火せず大規模火災にも至らず、多数の店舗を焼失させ怨嗟の声と目にさらされることはなかった。なにより、多数のお店を類焼させ罪もない店舗経営者や従業員を路頭に迷わせることもなかったはずである。経済産業省は、この教訓を活かし、業務用ガスこんろにもSiセンサー搭載の義務化を図るべきである(業務用の場合は、火加減調整機能も取り付け、なるべくプロの調理人のプライドや技術を損なわない配慮も必要)。そうなれば飲食店起因の大規模火災は劇的に減少するのではないか。
厨房用簡易型自動消火装置・水道管直結簡易型スプリンクラー設備
 業務用ガスこんろにSiセンサーがすぐに搭載できないのであれば、炎や温度が急上昇した時に感知器で感知し自動的に消火剤を放出して消火する「厨房用簡易型自動消火装置」を設置すべき。あるいは、延焼拡大を防ぐため、天井部で一定温度を感知して水を噴霧して放射する「水道管直結簡易型スプリンクラー消火設備」の設置が必要である。とくに、文化財的な建物や歴史的施設・建造物などの火気使用施設や飲食店からの出火を防ぎ、大規模火災を防止するためにはこうした消火設備の義務化を図ることも検討すべき。

22時間後に鎮火後も警戒態勢を緩めず、再燃懸念カ所に放水/以下 撮影:山村武彦

8月12日撮影 / 4月21日撮影


8月12日撮影 /4月21日撮影




80年の歴史を持つ小倉昭和館も焼失

上部の白い細長い建物は北九州モノレール旦過駅

左奥が焼失


焼け残ったお店も



こちら側は被害なし
旦過市場にはいくつもの出入り口や路地があるため、停電しない限り比較的容易に避難可能と推測できる

お盆用のニーズのある花屋さんと果物屋さんは火災から2日目に店を開けた


火災から2日目、焼失を免れたエリアは停電していない

消火器は各店舗に設置されたものと、路地ごとにも設置されている
飲食店等は面積に関係なく設置義務がある


  
 以下は4月の旦過市場火災の現地調査 写真レポート

2022年4月19日/出典:西日本新聞社

★2022年4月、旦過市場火災
 2022年4月19日未明、新旦過横丁付近から出火、鎮火までに約65時間を要し焼損面積1,924㎡、店舗約42軒焼失(人的被害なし)。店舗の多くが1950年代~60年代に建てられ木造建物で屋根はトタン板で覆われているため、消防の注水を阻害し、火は横へ横へと延焼拡大していき、トタン板により熱がこもり、高温になるため延焼速度が速いと推測される。また、通路が狭く消防隊員が火元に近づきにくく、さらに飲食店以外の店舗は早く閉店するため、夜になるとシャッターが閉じられているので、延焼しても破壊するのに時間がかかり消火活動がより困難になる。
 北九州市は、地域防災計画で特に警戒が必要な「特定消防区域」に指定。自主防災組織の育成や、防火水槽や消火栓などの設置促進を図り消防用設備等の充実を図っていた。また2018年には煙を感知して自動的に119番通報する、消防直通通報装置を導入している。
 そして、その4か月後の2022年8月10日午後8時半ごろ、飲食店の天ぷら鍋から出火の119番通報があり、消防隊が出動し消火に当たっているが、前回と同じようにトタン屋根に阻まれ、有効な注水ができず消火活動は難航している。
★旦過地区土地区画整理事業
 北九州市は神嶽川の改修にあわせて旦過市場の再整備のため、2021年2月10日に「旦過地区土地区画整理事業計画」を策定。計画によると、現在の旦過市場(旦過駅前)に4階建てビルを建設し、ビルの1~2階に約60店舗を収容し、神嶽川側へのセリ出しを解消。再整備に当たっては区域内の店舗を順次仮区画へ移転させながら営業を継続するローリング方式を採用し2027年度完成予定としていた。2022年4月に出火した新旦過横丁は土地区画整理事業のエリアには入っていなかった。

2022.4/撮影:山村武彦

2022.4
出典/西日本新聞

2022.4/撮影:山村武彦

神嶽川(かんたけがわ)の東側に位置する旦過市場(建物が川にせり出している)/2022.4
せり出した建物の影響もあってか、神嶽川はたびたび浸水・氾濫を起こしていた
2009年7月と2010年7月豪雨では神嶽川が2年連続で溢水し、旦過市場で浸水被害が発生している
そこで北九州市は神嶽川の改修と老朽化した旦過市場の再整備について市場関係者と協議を重ね
2021年2月10日に「旦過地区土地区画整理事業計画」を決定、2月10日付で事業に着手した矢先の連続火災
計画では2027年度までに事業を完成させ、鉄筋コンクリートビルに現在の店舗の多くを受け入れる予定だが
被害の激しい「新旦過横丁」は再整備計画に含まれていないが「自分たちも計画に入れてほしい」との要望も
旦過市場の裏側/2022.4

旦過市場裏側(以前火災があった建物)/2022.4


旦過市場入口/2022.4

旦過市場(中央市場入り口)/2022.4

旦過市場入口(西側)/2022.4

旦過市場入口(北側)/2022.4

2022.4

2022.4

2022.4

2022.4

新旦過横丁付近から出火/2022.4






2022.4


トタン屋根/横方向に火が広がり、上部からの消火注水を阻み消火活動を困難にした
ほとんどの建物が、建築基準法が整備される前に建てられたもの
木造密集、通路狭く、仕切りや屋根のトタン板が消防活動を妨げ、鎮火まで長時間かかる

表通り/2022.4

旦過市場の中には火災報知や非常ベル、消火器などが設置されている
火災報知設備が設置された店もある↑


大型消火器もあるが整備不良状態


被災者に心よりお見舞い申し上げ、一日も早い復興をお祈り申し上げます

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