防災システム研究所米国同時多発テロ事件防災アドバイザー山村武彦

同時多発テロ事件の教訓と提案


米国同時多発テロ事件の教訓

 世界貿易センタービルで、避難路を失った人たちは窓から救助を求めていました。しかし、非情にもビルは短時間で崩壊し膨大な瓦礫の下敷きになって、尊い命を奪われました。また、煙やガスに追われて窓から身を投げた人もいました。そして、爆発による高温にさらされた人々は業火に命を奪われてしまった。なんとも悲惨でやりきれない思いでいっぱいです。高層ビルで、非常階段などの避難路がふさがれた場合、はしご車でも届かず避難も救助もできません。また、第一回目のハイジャック機突入後、消火活動、救助活動のために身を挺してビルに飛び込んで行って犠牲となった、多くの消防隊員、警察官の職務に殉じた高潔な魂と勇気を忘れてはならない、そして、こうした多くの犠牲者の死を無駄にしてはいけないのです。今後、今回の事件を真似た類似テロの続発懸念もあり、安全は無償では得られない時代であることを認識し、事件の教訓を生かし、再発を防ぐ努力が強く求められています。日本国内でもバスジャック事件、池田小学校学童殺傷事件、新宿歌舞伎町火災事件など凶悪なテロや暴力事件が多発しています。21世紀社会の安全を構築するためには、知恵と資金を投入し「不条理なテロや暴力を許さず、怯まず、屈せず」を合言葉にした、安全社会システムの構築が急務です。しかし、警備をどんなに強化しても、その根本的な要因(テロリズムに走る背景と要因、支援国家や支援組織)を取り除かない限り、真の解決にはならない事も知るべきです。

教訓その1、テロリストが標的としやすい公共交通機関や、不特定多数の出入りする施設の警備強化
教訓その2、高層ビルなどの警報、避難設備およびシステムの整備強化
教訓その3、一般市民は隣人に無関心であってはならず、不審者の早期発見に努める協力体制強化
教訓その4、「安全の死角」をなくすための新社会システムの迅速な構築
   

多数の消防隊員殉職が残したもの

約3000人が死亡したといわれる中で、ニューヨーク消防局の隊員323人が壮烈な殉職を遂げた。避難者が階段で逃げ下りる中で、重たいホースと機材を肩に担いで猛然と駆け上る集団がいた。自分たちが火を消さなくて誰が消すのか、誰が逃げ遅れた人たちを救助するのか、崇高な使命感に命を賭けた消防隊員たちである。しかし、彼らに二機目が突入し、ビル全体が崩壊の危険が迫っていること、退去命令が伝わらなかったのだ。本部と現場を結ぶ中継設備が損傷していた。今後に大きな課題を残したが、それによって彼らの勇気と高潔な魂が損なわれるものではない。政治家や官僚が勲章をもらうが、常に人命と財産を守るために命賭けで職務を遂行する現場の警察官、消防隊員、自衛官こそ真の賞賛と勲章に値すべき人たちであると私は思う。敬意と感謝を込めて心からご冥福をお祈りします。山村武彦
   


テロ事件を未然に防止するための提案

1、不特定多数が出入りする施設や交通機関の警備強化
 (1)飛行機、列車、バス、船舶などの交通機関には、特に操縦室などの出入り口には 一定の武器を持った警備員
   常時配置する。
 (2)学校、幼稚園、駅、飛行場、公共施設等の入場者チェック及び警備強化
 (3)不特定多数が出入りする民間施設(デパート、レジャー施設、高層ビル、ホテル等)の入場者チェ
    ックと警備強化
 (4)市民が隣人に関心を持ち、時に連帯して不審者を事前にチェックする機能を持つ社会を創る
 (5)危険物、爆発物、銃、刃物の所有、販売規制、取り締まり強化

2、不特定多数の出入りする施設、高層ビル、雑居ビルなど(以下高層ビル等)の消防用設備(消火設
  備、警報設備、避難設備の整備強化を図る。
 (1)高層ビル等の高層階には、いざっというときに備え、人数分の避難用パラシュートを設置
 (2)高層ビル等の建物、防火対象物に、収容人数分のヘルメットと防煙マスクを備蓄、義務設置
 (3)高層ビル等にはパラシュート脱出窓又は非常用避難デッキを設置する。
 (4)高層ビル等には、警察 消防直結の自動通報装置及びホットラインを設ける
 (5)街ぐるみで放火などを防ぐための、国民安全運動を展開する
 (6)その他安全の死角をなくすための方策を公募する

3、緊急連絡網の整備
 (1)携帯電話等に、警察等への緊急自動通報機能を持たせる(緊急ボタンで自動的に音声、メールS
    OS信号を発する)これは、ストーカ防止、高齢者や障害者の緊急時通報にも役立つ
 (2)不審者や事件を目撃したら、緊急連絡網などで即時連絡できるシステムの構築

憎しみと報復だけでは真の解決にはならない
 テロ事件で犠牲になった人たちや、家族からすれば赦し難いことであり、手を下した犯人が自爆してしまい、捕らえ・裁くことができないとしたら、それを命令、教唆、支援、推進したものたちに、報復しなければ怒りは収まらないだろう、見せしめや報復せざるを得ない気持ちも理解することはできる。だが、今はまだ犠牲者の血が乾かない時期だから、そうした議論は、犠牲者の家族や国民の感情を逆なですることになるが、いずれ時間が経過したときに、冷静に考えなければならない問題がある。それは憎しみと報復だけでは真の解決策にならないということであり、事件を他の政治目的に利用、便乗する人たちへの警戒を怠ってはならない。再発を防ぐための一時的な対策でなく、気の遠くなる作業であり、困難ではあっても、世界の人々と連携して事件の背景を総括し、恒久的な対策と価値観の異なる人々との共生の道を探らなくてはならない。

1、事件の背景(なぜ、彼らがこの事件を起こさなければならなかったのか)、時間を掛けてでも分析総括が必要
2、憎しみや報復だけで問題は解決するのだろうか、新たな報復の連鎖と火種を更に増やすのではなかろうか
3、民間人を殺されたから、仕返しに民間人を殺してよいのだろうか
4、国家の威信、報復とは一体何なのか
5、報復攻撃、制裁攻撃という名の軍事行動は政治戦略に利用されていないか
6、連鎖テロや果てしない報復合戦をとどめる手段はないのだろうか
7、どこかで制裁の線を引いて赦すことはできないのだろうか

難民支援に全力を挙げるべき
米国同時多発テロ事件に関連し、予想されるアフガニスタン(タリバン勢力)に対する報復攻撃に先立ち、従来からの内戦を逃れたアフガニスタン難民に加えて、今回の戦争を前にアフガニスタン避難民約100万人がすでにパキスタン国境や、タジキスタンなど周辺諸国に押し寄せています。最終的には350万人から500万人が住む場所を失い食糧難に陥ると推定されています。大半は婦女子、老人で、大変劣悪な環境下での避難生活を余儀なくされ、今後開戦となった場合、更に多数の避難民流出の可能性が高いと思量されます。より以上に彼等の生活、健康状態の維持が困難となる恐れがあります。報復のためだからと言って一般市民を難民にしてしまうことは誰にも許される事ではありません。
日本政府は、パキスタン政府への経済制裁解除及びニューヨーク市への見舞金拠出と同時に、パキスタン政府等を通じて、これら避難民キャンプに人道支援を行うべきです。日本政府がこうした人道上の支援体制を取ることも、同盟国アメリカに対する後方支援となり、併せてパキスタン政府等の米国協力体制を側面支援する意思表示になると思われます。湾岸戦争時に多国籍軍の莫大な費用を負担した日本は、金は出しても手を汚さない国として、非難を受けました。今回は形の見える同盟国としての役割を求められています。日本の国際貢献、憲法との整合性を含め論議を呼ぶところと思われますが、対外的にも、国内世論に対しても、米軍や多国籍軍に対する一定の直接支援、後方支援と同時に、日本政府は戦争犠牲者への人道支援を最大限優先するべきです。そして、そのメッセージを日本国の姿勢として明確に内外に発表し、直ちに実行に移す必要があると思われます。

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