防災システム研究所


東海地震対策大綱

稲むらの火

 予知を前提とした対策を大幅に転換(2003年5月29日)東海地震対策大綱全文
 2003年5月29日、中央防災会議(会長・小泉首相)は政府や地方自治体、鉄道、学校、病院などの対応策を盛り込んだ「東海地震対策大綱」を発表した。地震予知を中心にしていたこれまでの対策を転換し、突発的に発生した場合でも建物倒壊による死者を4分の1程度に減らすため、公共、民間を問わず、建築物の耐震化を早急に進めるとした。
 また、異常データを観測した時点で「観測情報」として公表し、児童・生徒の避難や救援物資の準備などを始めるとしている。

 大綱の柱は
(1)日常からの対策
(2)異常データを観測した場合の対応
(3)「警戒宣言」発令時の対応
(4)地震発生直後の救援態勢
(5)復興対策
 これまでにも地震予知を前提とした「大規模地震対策特別措置法」(78年制定)に基づいた防災計画はあったが、日常的な備えから復興までを定めた大綱の制定は初めて。大綱は政府の地震対策の基本方針で、大きな揺れや津波に見舞われる恐れのある自治体や鉄道、電気、ガス、通信会社などは大綱に沿って、早期に防災計画を見直すことになる。
同会議は早ければ今夏ごろまでに、大綱に基づいて広域防災活動要領を策定する。

 大綱では、東海地震が直前予知できずに突発的に地震が発生した場合も想定し、日常からの取り組みとして、建物の耐震診断や耐震補強の緊急実施を盛り込んだ。中央防災会議が3月に公表した「被害想定」では、住宅倒壊による死者を約6700人とした。しかし、80年以前の建物の耐震強化で約1700人に減らせるとみている。自治体などには学校や病院、集会場、百貨店などの耐震性を調査し、建物ごとの結果を公表するよう求める。政府や自治体は助成制度の拡充などを検討する。

 また、全国各地から被災地への物資輸送や救助隊などの派遣計画をあらかじめ定める「広域的防災体制」を導入する。

 東海地方に設置した気象庁のひずみ計などで異常なデータが観測された場合は「観測情報」として公表し、防災活動に役立てる。これまでは防災職員の参集の目安にとどまっていたが、今後はこの情報で、児童の帰宅や旅行の自粛、自衛隊などの派遣準備などが始まることになる。

 一方、「数時間から数日以内に東海地震が発生する」との警戒宣言が首相から発令されると、これまでは大きな揺れや津波が予想される地域では、ほぼ一律で鉄道は運転見合わせ、小売店は閉店となっていた。しかし、帰宅や避難生活に必要な物資の調達などを円滑にするため、運行や小売店の営業を一定の条件の下で可能とした。

 地震の発生後は、「広域的防災体制」を生かすため、活動に必要な輸送ルートの優先的な確保や、徒歩帰宅が困難な高齢者などの避難場所や輸送対策を速やかに実施するとしている。さらに、復興の優先課題として(1)東西の幹線交通の復旧(2)上下水道、電気、ガス、通信の機能確保(3)がれき処理――を挙げた。

 南海地震、東南海地震と連動して東海地震発生の恐れもあることから、中央防災会議は今後、必要に応じて大綱を見直す。


【総合的な災害対応能力向上の取り組み】

 1 地域の災害対応能力の向上
   地震予知、警戒宣言などの正しい知識などの情報提供と啓発。防災力向上の緊急対策や災害の企業対応能力の向上。
 2 建物耐震化予防対策の緊急実施
  個人住宅の耐震診断や改修など総合的な対策や学校、病院など公共建築物の耐震化を計画的に実施し、マル適マークの実施も検討。道路、鉄道など主要な施設も耐震化。
 3 津波防災体制確立
  避難標識など施設を早期に整備し、釣り客、海水浴客など観光客のための的確な情報伝達体制を整備、避難意識を徹底。
 4 地震防災対策の計画的な推進
  第二東名高速道路の整備を早急に進めるなど強い基盤づくりを推進。ライフラインの耐震化を図り、供給・処理拠点の多元化・分散化 ルートの多重化等を図る。

 【警戒宣言への対応】

 1 正確な知識の徹底的な普及=略
 2 警戒宣言時の地震防災応急対策の実施
 (1)避難対策=最も適切な避難方法を家庭や地域で再検討。半島部など交通渋滞の生じにくい地域では、相談し車の台数を絞って利用も可能に。
 (2)鉄道=宣言までは需要に応えるため極力運行を継続。宣言時は強化地域内で震度6弱未満かつ津波の被害の恐れがない地域は、事業者が判断し対応を明確化。それ以外の地域内は運行中止。
 (3)道路=宣言前から交通規制の情報提供。名古屋市など渋滞が予想される地域は、車の使用自粛を伝達。宣言時は、小規模小売店の車両を確保し、必要に応じ輸送実施。
 (4)帰宅困難者=宣言までは可能な限り公共交通機関を動かし、企業には自転車通勤や自動車相乗りを奨励。コンビニ、郵便局などの協力で情報提供や帰宅支援。
 (5)ライフライン=災害伝言ダイヤル171開設
 (6)生活必需品の確保=宣言時でも小売店舗などで安全性を確保できる場合はサービス継続。
 (7)医療=耐震性を有する病院は宣言時も診療継続、耐震性の劣る病棟からの患者搬送、家族などによる引き取りを実施。
 (8)生活関連サービス=金融機関はCDなどの利用を継続しそれ以外は中止。自治体の窓口は必要最小限の業務を実施。
 3 観測情報など警戒宣言前からの対応=略

 【発災時の応急対策】
 1 広域対策の実施
 医療や救助、物資搬送の拠点となる多様な防災活動拠点を整備しネットワーク化。発災後は速やかに大まかな被害像を関係者で共有。緊急輸送の交通を確保。緊急度の高いものから拠点に搬送。
 関係都県はコンビニなどと被災直後から営業実施が可能なように協定を結ぶ。コンビニなどの輸送車両は救急・救助、医療、消火活動の車に影響を与えないと認められれば段階的に通行。帰宅困難者の徒歩帰宅を支援するステーションのネットワーク化。
 2 広域対策の実施
 政府の広域的活動の手続きなどを具体化した「東海地震の広域防災活動要領」を関係自治体の協力を得て早急に策定。
 3 経済影響を最小限に抑える計画的な復旧・復興=略

2003年7月28日中央防災会議は防災基本計画を見直し、地震の予兆を捉えた場合、発生の切迫性に応じて「観測情報」「注意情報」「予知情報」という3段階の地震情報を公表することを決め、2004年1月から実施する。警戒宣言までの流れは下図のようになる。

防災システム研究所
 平成15年5月に決定された「東海地震対策大綱」に基づき、中央防災会議は地震防災基本計画を見直した。
東海地方に設置された地殻の伸び縮みを検出する「ひずみ計」19ヶ所のうち、一ヶ所で東海地震の予兆の可能性のある異常を観測した場合「観測情報」を、二ヶ所に増えた段階で「注意情報」、三ヶ所以上になった時点で「判定会」を開催し、判定会で「発生の可能性がある」と判定した段階で「予知情報」を発信し、首相が警戒宣言を発令する。
 「観測情報」では、自治体などの防災機関は情報収集や連絡体制を強化する。「注意情報」で学校の児童の帰宅や旅行自粛の呼びかけ、救急や消防、医療関係者らの派遣準備や物資の点検などを始める。
これまでは、地震発生の可能性が高くなった段階で、防災機関の職員を緊急に呼び出すなどする「判定会招集連絡報」があったが、交通規制などを行う「警戒宣言〉発令するまでは、住民の避難などの防災活動を始める仕組みになっていなかった。気象庁によると、技術的に「注意報」は最も早い場合で地震発生の半日前に出せるが、発生直前の場合もある。情報を出せるのは地震発生直前にプレート境界のすべり現象が観測網で捉えられた場合に限るので、突発的に地震が発生することも考えられる。


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