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イタリア地震(2009年4月6日午前3時30分・マグニチュード6.3)

死者294人、4万人が家を失う(4月19日現在)
2009年4月6日午前3時30分ごろイタリア中部でマグニチュード6.3(震源の深さ約10Km)の地震が発生した。ローマ北東95Kmの震源地に近いアブルッツォ州ラクイラ市(人口6万8千人)を中心に大きな被害を出している。これまでに死者約
284人、負傷者1500人、倒壊建物は1万棟以上、家を失った人は4万人と発表されている。
復興費用は1兆5千億円
ベルルスコーニ首相は直ちに現地入りするとともに「非常事態」を宣言した。そして4月10日、今回の地震による犠牲者の国葬が執り行われた。ラクイラはロマネスク様式の歴史ある教会などの重要建築物で知られる観光地。マロ―二内相は、深刻な被害を受けた中部地区の復興には120億ユーロ(約1兆5000億円)がかかると述べた(4月15日)
イタリアは日本と同じ地震国
アフリカプレートとユーラシアプレートの境界にあるイタリアは、日本と同じ地震多発国。1908年シシリー島メッシナ地震(死者7万5千人)、1915年にはアブルッツォ州アヴェッツァーノ市の地震で約3万人が死亡。1976年の北東部地震では、小学校の1階部分で授業を受けていた低学年生20名を含む約1000人が犠牲になっている。イタリアの背梁であるアペニン山脈(標高2912m)周辺は活断層(または地殻層・構造帯)地震がたびたび発生しているが、今回の地震もラクイラ付近の活断層が動いた都市直下型地震と推定される。震源の深さが約10Km(米国地質調査所)と浅いため、今後余震が頻発する可能性が高いと思われる。
地震予知と内集団ひいき
イタリア中部にあるラクイラ市はアペニン山脈に連なるグラン・サッソ(Mt. Gran sasso)山麓に位置している。そこにあるグラン・サッソ山研究所のジャンパオロ・ジュリアー二研究員は、昨年12月から同地区で微震が続き3月12、17、20日には強い地震があり、またラドンガスの増加も観測された。そこで彼は3月末から4月初旬にかけて地震発生が懸念されると判断し、ラクイラ市や民間防衛隊に「近いうちに大地震が発生する」と警告を発する。しかし、彼らからは信ぴょう性のない情報として相手にされない。地震発生1週間前に開かれたラクイラ市の地震対策会議でも注意は必要だが異常な警戒は不要という結論が発表された。ジュリアー二氏は自分で車を運転しながらメガホンで警告したり4月1日付けYou Tube上で彼の地震予測コメントを流したりする。しかし、学会や政府関係者たちは無視するか精神病患者扱いまでする人までいた。これはある意味で「内集団ひいき」である。
「内集団ひいき」という言葉は、同じ集団やグループに属しているというだけでその人となりやその人の考えに関係なく無条件に受け入れる心理を言う。たとえば、初対面であっても同じ団体メンバーであったり、学校の同窓生というだけで好意的に対処ししてしまうのである。逆にそれ以外のグループや主流から外れた人たちを意味もなく排除することもある。学者たちの中には自分たちの学説に対峙するものを異端児と決めつけたり、他のグループに属しているからと検証もせず頭から門前払いするきらいがある。再現性・実証性が困難であり正確な地震の直前予知(規模、場所、日時等)は極めて難しいといわれていることも事実ではある。しかし、開発途上の技術や普遍的法則も確率されていない段階で、閉鎖的グループ内だけで論議し従来学説だけに縛られていては地震予知学が進展することはさらに困難になると思われる。内集団ひいきに陥ることなく無名の研究者にも広く門戸を開き、異なる学説や宏観現象などにも真摯に耳を傾け、多角的複眼的に検証して判断し議論してこそ真の学者である。学問や技術は、少しの可能性やアイデアをも排除せず根気よく検証し続けてきたからこそ進化してきたのではないかと思う。
日本に学べ
大地震が発生するたびに建築基準法の耐震基準を強化してきたのも日本と同じ。しかし、コストがかかるため歴史建造物、学校などの公的施設、貧困層アパートなどの耐震化はほとんど進んでいない。今回の地震後「日本の緊急地震速報に学べ!」「この程度の地震(M6.3)だったら日本では死者は出なかった」というマスコミや建築専門家からの大合唱に、政府は耐震化助成措置、一部耐震基準の見直しなどを発表しているが、熱しやすく冷めやすい国民気質にその実効を懐疑的に見る向きも多い。。イタリア地震工学の権威フランコ・ブラガ博士は「建物の倒壊は、新旧を問わず構造設計や認可・検査の不備が原因と思われる。地震に対する甘い国民の危機意識を変えない限り惨事は繰り返される」と述べた。イタリアでは2008年1月に日米に匹敵する新耐震基準が発表されたが、コストが上がれば仕事が減るという認識の建築業界圧力で、2010年1月まで施行期日が猶予された。仮に新耐震基準が発効しても日本のように建築確認体制や罰則規定が整っていないため、通常民間の建築物で検査されるのは全体の5%にと留まっていることからもこのままでは有名無実との耐震基準になりかねないと懸念されている。

安全・安心大国
世界が注視する「防災先進国・日本」、確かに耐震法令、防災技術、情報伝達システムなどは格段に進歩してきている。しかし、津波警報が出ても避難しない人の方が多くテポドン上空通過も他人事など、国民の危機管理意識は極めて低い。学校や公的施設の耐震化推進は国の助成措置がなければ一向に進まず、昭和56年・新耐震基準に満たない住宅の耐震診断・耐震改修補助金も消化できていない。「日本に学べ」と言われるのが恥ずかしいほど、技術やシステムに比較して防災民度は進化(深化)していない。システムや箱ものを造るより「実践的防災・危機管理国民運動」の展開など、国は防災・危機管理意識啓発にもっとコストとエネルギーを傾注しなければならない。そして、大地震にも揺らぐことのない心の準備・対策を行い世界の範と成り得る真の安全・安心大国を目指すべきではないだろうか。
犠牲者のご冥福を祈り、被災者に心よりお見舞い申し上げます/山村武彦
 

USGS(米国地質調査所)今週の世界の地震発生地(M2.5以上)イタリア
イタリア中部地震/画像(ロイター)