岩手・宮城内陸地震1周年四川地震直後・現地調査/画像阪神・淡路大震災新型インフルエンザ防災・危機管理講演会山村武彦

平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(現地報告・文と写真:山村)

 岩手・宮城内陸地震の概要
■発生日時/2008年6月14日8時43分45秒
■震央/日本・東北地方岩手県宮城県県境(北緯39度01.7分・東経140度52.8分)
■震源の深さ/8Km
■地震の規模/マグニチュード(M)7.2
■最大震度/震度6強:岩手県奥州市、宮城県栗原市
■地震の種類/直下地震(逆断層型)
■人的被害/死者15名、行方不明者8名、負傷者448名
■主な死因/土石流(5名)、土砂崩れ(3名)、落石(2名)、車両埋没(1名)、地震に驚き道路に飛び出し死亡(1名)、書籍の下敷き(1名)、不明(2名)
■全壊建物/23棟
■半壊建物/65棟
■火災/4件
■特徴/被害は山間地に集中し、平野部や市街地の被害は軽微。栗駒山周辺で山体崩壊、岩屑なだれ、土砂崩壊、河道閉塞等、山岳地震。

犠牲者のご冥福を祈り、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます
山村武彦
「2008年栗駒山直下地震」に訂正しては?
 現地を回ってきて「岩手・宮城内陸地震」という表記に強い違和感を抱きました。どうしても県名を明記しなければならないのであれば「宮城・岩手県境、栗駒山直下地震」が妥当と思われます。その理由は
1、震源地は栗駒山付近であり、岩手・宮城内陸というと一部の山間地というより市街地を含む広範な地域を意味すると受け止められること。
2、地震による地すべり、土砂災害などによって発生した災害(被害)の9割以上が栗駒山周辺の中山間局地に限定されていること。
3、応急対応、復旧対応の対象となる被災地域が、栗駒山周辺の中山間局地に限定されていること。
4、栗駒山周辺を除き、岩手・宮城両県ともその他の地域の人的、物的被害は極めて軽微であること。
5、「岩手・宮城内陸地震」と繰り返し報道されることで、被災していない観光地、ホテル、旅館のキャンセルが続出していて風評被害となっていること。
 気象庁の地震命名基準(下段参照)によれば、「元号(西暦年)」と「震央地名」を用いて命名するとされていますが、震央からしても今回の地震は山間局地災害であり両県内陸部全体の地震と誤認されるような表記はいかがなものか。この呼び名によって、結果として風評被害という三次災害を招き観光産業や地域産業に大きな損害をもたらせていることを勘案し、一刻も早い地震名訂正が望まれます。
 
 通常M7.2、震度6強の地震であれば、数千〜数万棟の全半壊家屋があっても不思議ではありません。しかし、6月26日現在における被害集計によれば、死者・行方不明者22名、全壊家屋23棟、半壊家屋39棟でしかないのです。むろん、被災された方々からすれば全体規模に関わらず、大変な災難であることは間違いありません。しかし、一関市での死者1名は、地震に驚いて店先の道路に飛び出しトラックに轢かれた間接的交通事故でした。また、福島県いわき市の死亡者1名は、海岸の岩場で釣りをしている最中背後の岩が落下してきて海中に投げ出されたものでした。それ以外の人的被害の大多数は栗駒山周辺で発生した土砂災害によるものと推定されています。にも関わらず、被害のない震源地から遠く離れた観光地(花巻、平泉、松島、仙台など)にさえ影響を与えているのは、ひとえに「岩手・宮城内陸地震」の表記が要因としか考えられません。

 各観光協会で話を聴くと、異口同音に「風評被害によるキャンセル続出、観光客離れ憂慮」を訴えます。現状でさえ低迷している地域経済をさらに悪化させてはなりません。今からでも遅くはありません、早急に訂正すべきです。その訂正報道が、誤った風評を廃しその地域の安全宣言となるのですから。
 
そして我々も傍観者にならず、風評被害を払しょくし励ますために岩手・宮城で積極的に各種会合を開き、遊びに行ってあげることが大切と思います。

気象庁・地震命名基準(気象庁HPより)
 気象庁では、顕著な大地震や豪雨などが発生した場合、名称を統一することにより応急対策活動等に資するとともに、将来に記録しておくべく資料として記憶に残すよう、災害を引き起こした地震等の「現象」について命名しています。地震については、以下のような複数のおよその目安をもって、わかり易いように、「元号(西暦年)」と「震央地名」を用いるなどにより命名しています。
1.地震の規模が大きい場合
 陸域: M7.0 以上(深さ100km 以浅)、かつ最大震度5 弱以上
 海域: M7.5 以上(深さ100km 以浅)、かつ、最大震度5 弱以上または津波2m 以上
2.顕著な被害(全壊100棟程度以上など)が起きた場合」
3.群発地震で被害が大きかった場合
ただし、必ず「震央地名」を用いるものではありません。例えば、平成19年7月16日の新潟の地震の震央地名は、新潟県上中越沖ですが、その後の余震の発生状況は震源域が中越沖に限定されていることから、「平成19年(2007年)新潟県中越沖地震」と命名しました。
命名の目安として「震央地名」を用いるのは、地震の震源または震央を連想できることが地震を命名する場合に重要な要件であり、震央地名はそれを満足できる要素であると考えているためです。また、気象庁では発生した「地震」に対して命名していますが、地震により発生した「被害」に対しては政府が別の名称を付けることがあります。例えば、気象庁が命名した「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」による災害は、政府として「阪神・淡路大震災」と呼称し、それぞれ地震を指す場合と被害を指す場合とで使い分けられています。

「山間地・地震遭遇時の緊急行動心得」
・小さな揺れを感じたら、地震の大小を見極めようとせず、直ちに安全行動をとる。
・地すべり、落石に注意しつつ、直ちに崖や急傾斜地から離れる。
・土石流や鉄砲水に注意しつつ、直ちに谷や沢など狭隘地から離れる。
室内にいたら、転倒落下物から離れ出入口を開けるなど避難路を確保し、土石流、地すべりに留意しつつ、直ちに建物から出て安全ゾーンに避難する。
・車に乗っていたら、落石、地すべり、土石流などに注意しつつ、ハザードランプを点滅させ徐行停車し、急傾斜地、狭隘地、沢や川などから安全ゾーンに徒歩で避難する。

 (社)一関観光協会・小野寺広芳事務局長(談)
 「栗駒山周辺で被害を受けられた方々には心よりお見舞い申し上げます」しかし「岩手・宮城内陸地震と命名されて、岩手内陸部全域に被害が出ているのではと心配される方もいらっしゃいますが、県内はもちろん、大部分の観光地は被害はまったくありません。
 6月28日から7月21日まで「みちのくあじさいまつり」が開かれます。約1.5Kmの散策路の両側に250種2万5千株あまりのアジサイが咲き乱れます。樹間の風はひんやりと澄み切って、まさに花の森林浴。ゆったりと自然が満喫できます。お年寄りや体の不自由な方のためにはカートもあります。そして、名勝げいび渓の川下りも待ってます。ぜひ一関へおいでください。
詳細はこちら

世界遺産登録申請中の一関の名勝げいびけい・川下りや土産物店は元気に営業中

 
一関駅前や駅前通りは、シャッターを閉めた店舗が目立つ(地方の経済は疲弊している)

(社)平泉観光協会・山平省一事務局長(談)
 「毎日、岩手・宮城内陸地震と土砂ダムの危険性が報道されているせいか、ホテルや旅館でキャンセルが出ています。しかし、中尊寺をはじめ周辺観光地は元気に営業中です。この6月20日から7月10日までは毛越寺の「あやめまつり」が開催されます。約30アールのあやめ園に3万株の花菖蒲が皆さんををお待ちしています」詳細はこちら

山平事務局長によると、地震後 平泉駅の乗降客がかなり減ったという

藤原氏の栄華をつたえる・中尊寺金色堂も全く被害なし

クリーニング店兼米店で地震を感じた男性(60)は店から1mの県道に飛び出しトラックに轢かれて死亡(地震直後、道路に近付かない
お店や周囲の建物には損傷なし(一関市・
東町松川)

磐井川下流に濁り水が流れてくるのを見て、一関市民は関係者に感謝しつつ安堵する
この濁り水こそ、上流の土砂ダムで警察・消防・国交省などの関係者による懸命の排水作業の賜物だから・・・
60年前の悪夢再来?
1948年9月、アイオン台風による大規模な土砂崩れが発生、数日後決壊、一関市内は3〜4mも浸水し400人以上が死亡し1700戸流失した。
今回の地震で発生した磐井川上流の土砂ダムは、その時とほぼ同じ場所で発生したため、60年前の悪夢再来かと市民は一時緊張した

 宮城県経済商工観光部観光課・副参事兼課長補佐濱田毅氏(談)
 まずもって、犠牲者のご冥福と被災者に心よりお見舞い申し上げます。そして、全国から寄せられた義捐金、ご支援に感謝申し上げます。
 さて、観光業界についても心を痛めることが起きています。通常、旅館・ホテルなどのキャンセルは1%程度ですが、地震後の集計では5%から14.9%のキャンセルが発生していて、今後さらに増加する可能性があります。「岩手・宮城内陸地震」と頻繁に報道されますので、宮城県内陸部全体が被害を受けているものと誤解される方もいらっしゃるのではないかと心配しています。
 今回被害を受けたのは宮城県内でも、栗駒山周辺の中山間地だけで、ほとんどの観光地はインフラも含め被害ゼロです。ぜひご理解の上、宮城に来てください。それが、宮城を励ますことになります。

 宮城県栗原市花山地区・シイタケ栽培農家:中村 博さん(談)
 「自宅もハウスも全く被害はありません。しかし、年間約10万トン(1000万円相当)程度シイタケを出荷しているが、道の駅、ホテル、旅館に観光客が来なくなれば出荷が減ってしまいます。少なく見積もっても20%程度の減収となります。被害がないのに宮城県全域が被災しているように思われるのは残念です。観光産業は複合産業です、観光客が少なくなれば魚屋さん八百屋さん土産物屋さんをはじめ、地域全体が地盤沈下してしまいます。中小企業は現在でも厳しい状況にあります。観光客の皆さんが正しく判断して宮城に来てくれることを願っています」
中村さんのシイタケ農場

「ありがとうございました!」「ご苦労様でした!」自衛隊災害派遣・撤収に、手を振り感謝の言葉で見送る人々(栗原市役所前)
助手席の隊員は感激の面持ちで敬礼で応えていた。
彼らが去ったあと、復旧・復興、風評被害払しょくという困難で長い本当の戦いが待っている