1960年チリ地震津波の知識と教訓スマトラ沖地震津波津波の注意標識稲むらの火奥尻島の津波防災システム研究所山村武彦


2010年アイスランド火山(エイヤフィヤットラヨークトル氷河)噴火

 2009年12月ごろからアイスランド・エイヤフィヤットラヨークトル氷河火山地帯で火山性地震が始まる。それは地下7〜10Km付近を震源とするM2程度の地震で回数は数千回に及んだ。2010年2月26日、アイスランド気象研究所のGPSが付近の地殻が3pほど南方に移動したことを伝えていた。異常な火山性地震と地殻変動はエイヤフィヤットラヨークトル火山のマグマ溜まりにマグマが溜まり移動しつつありその圧力で地殻変動が起きていることを物語っていた。2010年3月、火山性地震活動はさらに活発になり、3000回以上も観測されるほどであった。
 2010年3月20日午後10時30分から11時30分にかけて氷河の数キロ東にあるフィムヴェルズハゥルス峠の北側斜面でついに噴火が始まり、周辺地域住民約500名が避難した。翌3月29日に一時的に通行止めは解除されたが「2つ目の亀裂」が発見されたことにより「氷河や雪原近くで噴火すれば、土石流・鉄砲水などの災害が懸念される」として、氷河に通じる道路は再び封鎖された。しかしそれも4月1日には解除され、多くの専門家は小規模の噴火で収まるとみていたようだった。
 実際は噴火斜面には巨大な亀裂が北東から南西にかけて長さ約500mにわたって広がり、10から12か所ほどの噴火口から1000℃から1850℃の溶岩が高さ150mまで吹き上がっていた。溶岩はアルカリ性で粘性は高いため溶岩流の移動速度は遅かったが、亀裂の北東4000m以上の地域まで到達した。噴火口付近で採取された噴火灰のサンプルを調べると、灰1Kgあたり平均で104mgのフッ化物が含まれていることが分かり「家畜に池や川の水を飲ませないように」と付近の農家に注意が呼び掛けられた。その時点で地理学者のマグヌース・トゥミ・エイナルスソン氏は「この噴火はヘクラ山で発生した2000年の噴火のように、比較的小規模なものになるだろう」と報道陣に語っている。しかし、こうした専門家の予想はまったく外れてしまう。
 2010年4月14日、いったん鎮静化したとみられていた噴火口から再び大規模な噴火が起こる。主に炎と溶岩を噴出した3月とは異なり、今回は大量の火山灰を上空16000mに吹きあげ大規模噴火となった。灰の混じった噴煙はイギリス北部に到達後欧州北部、中部全域、16日にはスペイン北部に達する。航空機エンジン停止などのトラブルを避けるため、4月18日には約30カ国の空港閉鎖となった。4月21日に解除されるまで、「9.11米国同時多発テロ事件」を超える規模の史上例を見ない空路閉鎖となって、全世界の航空ネットワークを大混乱に陥れることになる。そして、足止めを食った旅行者やビジネスマンたちは各地で立ち往生した。この噴火災害による航空業界の損失について国際航空運送協会(IATA)は、約
30億ドル(約2800億円)以上になると試算している。
 このエイヤフィヤットラヨークトル火山から約25Km離れた位置に、世界有数のカトラ火山がある。過去3回エイヤフィヤットラヨークトル火山が噴火した後にこのカトラ火山も噴火している。この火山は巨大な氷河の中にあり、もしカトラ火山が噴火すれば、大量の氷河を溶かし大規模洪水が発生する危険性がある。あるいは今回を上回る噴煙を噴き上げる可能性も否定できないが4月22日時点でカトラ火山噴火の前兆は観測されていない。しかし、いったん沈静化されてもしばらくは再噴火のおそれがある。また、上空高く舞い上がった細かい火山灰の粒子が地球を覆い、異常気象を起こすことがあるので警戒が必要となる。