自主防災組織東日本大震災阪神・淡路大震災中国四川省地震中越沖地震防災講演防災アドバイザー山村武彦近助の精神


<災害に強い安全・あんしん街づくり/自助・近助・共助・公助>:文・画像:山村武彦

阪神・淡路大震災(1995.1.17.AM5:46)/行方不明者の名を呼ぶ人たち:撮影/山村武彦

自助
self-help
★天は自ら助くるものを助く
 100年ほど前、英国の作家サミエル・スマイルズ(1812〜1904)は「天は自ら助くるものを助く」と自助論で述べています。自ら助くるものとは、暮らし(衣食住)の自立、経済的自立、安全の自立、思想的自立、つまり他力本願ではなく自らが思考し、自らが行動し、困難に怯まず諦めず自らの望む生き方を自らの力で目指すことでもあります。自らを自らが助け、自らの意思で生きるということ、それが一個の人格(人間の尊厳・真の自由)なのです。自分と家族の安全を守る原則は自助努力以外の何物でもありません。大規模地震、水害、土砂災害、津波から自分や家族の命を守るために今何をなすべきか、危機管理はまず自らの力で被害を受けないための努力が必要です。
 我が家の耐震対策、室内の転倒落下防止対策、ガラス飛散防止対策など、自分と家族の安全のために当然ですが、合わせて最低7日分の水食料の備蓄も自助防災の基礎だと思います。
 その一方で、身体が不自由な方、病人、高齢者、乳幼児、妊産婦など自助努力だけでは行動できない人、暮らしや安全が確保できない人に対して、自らを助けるごとく助けることも人格です。生きること、そして防災は究極のモラルです。

近助
neighbors support
★大切なのは「近助の精神」
 阪神・淡路大震災(平成7年1月17日・死者6434人)のとき、建物の下敷きになるなどして自力脱出困難者約35000人のうち77%は家族、近隣住民によって助け出されました。自衛隊、消防、警察などの防災関係機関による生存者救出は19%でしかありません。それに、直ちに全ての被災住宅へ消防、警察、自衛隊が駆け付けられるわけでもありません。災害直後、身体障害者、高齢者、乳幼児、病人など災害時要援護者の安否確認や避難支援ができるのは近くにいる人だけです。
 私は自主防災組織の中に、向こう三軒両隣の「防災隣組」「安否確認チーム」の結成を強く提案します。
自主防災組織という「共助」の前に、向こう三軒両隣が助け合う「近助の精神」こそが重要です。昔、「隣組の歌」というのがありました。その三番に「♪トントントンカラリンと隣組、地震・雷・火事・泥棒、たがいに役立つ用心棒、助けられたり助けたり♪」の歌詞があります。軍国主義的押しつけの隣組はいただけませんが、自発的な近隣同士・連帯の絆づくりの防災隣組がこれから必要な時代です。
 今、高齢者の所在不明、未熟な親の幼児虐待、高齢化による防災意識低下、孤独死など様々な問題の原点は「絆の欠落」にあります。問題を解決するためには「地域の絆」「隣人の絆」復活以外に決め手はありません。今ほど近隣住民同士の隣保共助、見守り、助け合いの「近助の精神」が重要な時代はありません。それも、普段からさりげなく見守り助け合う仕組みを作る必要があります。ぜひ地域ごとに「近助の精神・啓発推進運動」を展開していただければと願ってやみません。人間という群れ社会に棲む者の、それが最低限度の作法(モラル)なのですから。

共助
mutual assistance
★キーワードは「近助・互助・共助」「自守防災」
 安全・あんしん街づくり(コミュニティ)のキーワードは、近助・互助・共助と自守防災です。「自主防災」というのは
自主的な防災ではなく、自らの地域を自らが守る「自守防災」(セルフディフェンス)だと思います。
 想定される大規模な地震、水害などの
大災害発生直後は、防災関係機関(消防、警察)の対応能力をはるかに超える被害が予想されます。その時に住民と地域を守ることができる「自主防災組織」の活動が必要不可欠です。初期消火、安否確認、救出救護、災害時要援護者避難支援、避難所運営、被災情報の伝達、ボランティア受け入れなど、住民全員参加で役割分担して対応する必要があります。
 阪神・淡路大震災以降、全国で自主防災組織の結成が推進されました。その結果全国で70%以上の組織率となっていますが、問題は本当に役立つ自主防災組織となっているかです。実際の災害時に機能するようになっているかが大切です。自主防災組織が実戦的な研修・訓練によって真の安全・あんしん街づくりの求心力となるよう地域ぐるみでの努力が必要です。

公助
civil service
★行政でしかできないことを行政が行う「公助」
 厳しい財政状況にある行政が行う防災対策のポイントは「行政でしかできないことを行う」ことと「安全・あんしんの仕組みづくり」にあると思われます。行政でしかできないことは公共施設の耐震化、福祉避難所の整備、消防水利(耐震防火水槽)の整備、地域住民の意識啓発などです。一定の水や食料の備蓄も大切ですが、期限到来時に廃棄しなければならない水・食料は原則家庭で行うべきです。こうした「公」と住民「市民」との役割、責任の明確化も重要だと思います。
 これからの行政における防災対策で重要なのは「防災の仕組みづくり」です。行政そのものが受け皿になるのではなく、仕組みを作ることです。例えば、自主防災としての防災隣組・安否確認チームの仕組みづくり、医療関係機関、当事者団体、ボランティア団体、宿泊施設などの協力を得て「福祉避難所運営委員会」を設置し、災害時要援護者の収容を図ることもできます。つまり、厳しい財政事情を考え新しい企画を推進しないのではなく、行政として受け皿にならずに仕組みを作る企画を進めるべき時代です。それはは自治体などの行政だけでなく、各種団体や民間事業所も自社の業務復旧だけでなく地域貢献や被災者支援としてのCSR(社会貢献)とCCP(Comunity Continuity Plan)が大切です。発災時、企業が何をしたか何をしなかったが問われる時代ですから。

阪神・淡路大震災:建物などの下敷きになった自力脱出困難者約35000人のうち77%は近隣住民が救助した
亡くなった人の84%は地震発生後約14分以内に死亡(早く助けることができるのは近くにいる人たち)近助の精神が大切
倒壊した家屋/1995年1月17日午前・撮影:山村武彦

 燃えるマンション/1995年1月17日午前・撮影:山村武彦

夥しい数の電柱が道をふさぎ消防隊・救助隊を阻む/1995年1月17日午前・撮影:山村武彦

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