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2018年中津市(耶馬渓町)土砂災害/現地調査写真レポート 文・写真/山村武彦 |
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土砂災害現場/大分県中津市耶馬渓町金吉(やばけいまち かなよし)3929番地付近 |
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★災害現場 中津市耶馬渓町大字金吉は、JR九州日豊本線中津駅から南に約30㎞、標高300~350mの山合いを流れる山国川支川金吉川(かなよしがわ)に面した山麓の集落。 |
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1級河川・山国川(やまくにがわ) |
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山国川支川・金吉川(かなよしがわ) |
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2018年4月11日午前3時40分ごろ土砂崩れ発生(雨無し土砂災害) |
★災害概要(2018年4月15日現在) ・発生場所/大分県中津市大字金吉3929番地付近 ・警戒区域/被災箇所は一級河川山国川支川金吉川沿い、土砂災害警戒区域(急傾斜)に指定された地域。 ・人的被害/死者・行方不明者6名 ・住家被害/全壊4棟 ・災害規模/巾約200メートル、長さ約250メートルが土砂崩れ、被災箇所付近の市道が通行止め、金吉川へ土砂流入が認められるが治水上の問題は無し ★雨量/中津市耶馬渓のアメダス観測所では、4月6日から7日にかけて6mmの降雨が観測されて以降、11日まで0.5mm以上の雨は観測されていない。 ★当日の概況/ 2018年(平成30年)4月11日(水)天候:曇りのち弱い雨 ・3:40ごろ/大分県中津市耶馬渓町金吉(かなよし)で住宅の裏山が崩落 ・3:48/数軒の住宅が埋まっているとの情報 ・5:24/自衛隊に第1報 ・5:40/県が災害警戒本部立ち上げ ・5:45/中津市が県建設業協会中津支部に土砂撤去などの作業を要請 ・6:00/中津市が第1回災害対策会議開催 ・6:14/内閣府・情報連絡室設置 ・6:14/警察庁・災害情報連絡室設置 ・6:14/大分県警察本部・災害警備本部設置 ・6:20/中津市の要請を受け大分県知事から自衛隊第41普通科連隊長(別府)に対して、大分県中津市耶馬渓町において山崩れが発生し、住宅3世帯が土砂に埋まり、住民が安否不明のため、人命救助に係る災害派遣要請 ・6:40/警察庁のリエゾン要員官邸に到着 ・6:53/県警ヘリ「ぶんご」発進 ・7:15/陸上自衛隊別府駐屯地から第41普通科連隊初動部隊(FAST-Force)人員25名、車両5両出発 ・7:17/消防庁・消防災害対策室設置(第1次応急体制) ・7:23/陸上自衛隊別府駐屯地から、人員50名、車両15両が現地に向け出発 ・7:25/航空自衛隊西部方面航空隊UH-1型2機(映像伝送機)が駐屯地を離陸 ・7:50/DMAT・3チーム出動 ・8:00/中津市が耶馬渓町金吉梶ケ原の8世帯19人に避難勧告 ・8:50/消防庁に緊急消防援助隊の派遣要請 ・8:50/自衛隊第1派が現地に到着 ・9:00/自衛隊が現地での活動開始 ・9:00/大分県知事から消防庁長官に対し、緊急消防援助隊の応援要請 ・9:05/消防応援活動調整本部を設置 ・9:10/消防庁長官から福岡県知事に対し、緊急消防援助隊の応援出動要請 ・9:30/防災ヘリ はるかぜ号(九州)福岡空港離陸~9:45現場上空到着 ・9:40/消防庁から大分県に緊急消防応援隊の派遣決定 ・10:00/大分県警察警戒本部に広瀬勝貞知事が到着 ・10:15/現場に自衛隊の重機が入る ・10:30/消防庁長官から熊本県知事に対し緊急消防援助隊の出動要請 ・10:45/消防庁長官から福岡県知事に対し緊急消防援助隊(指揮支援隊)の出動要請 ・10:50ごろ/現地で雨が降り始める ・11:20/菅義偉官房長官が会見で「被災者の救急救助に全力を挙げる」 ・11:30/県が緊急関係部長会議を開催 ・13:14/土砂の中から1人を発見 ・13:46/現場で死亡を確認 ・13:55/遺体は岩下義則さんと親族が確認 ・15:30/国交省・専門家調査チーム(3名)が上空から現地視察 ・16:30/県北部保健所がDMATと情報共有 ・18:10/DMAT撤収 ・19:00/中津市耶馬渓支所で国交省の調査チームが会見 ・20:00/県災害警戒本部が会見 ・24:00/消防が捜索作業を中断、陸自は24時間態勢で続行 ・県警、消防、陸自と合わせ520人態勢で捜索 |
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★専門家チームの見解 現場を調査した国の専門家チームは4月11日日、市耶馬渓支所で記者会見し「風化が進んでもろくなった岩盤が、土砂の層を巻き込みながら崩れた」との見方を示した。「地下水の影響による可能性は低いとみられる」とし、「多量の雨が降っていない中で、今回の崩落は極めてまれなケースだ」と指摘。 専門家は国交省九州地方整備局の依頼で派遣された安福規之九州大学大学院教授ら3人と、県から要請を受けた国土技術政策総合研究所の桜井亘深層崩壊対策研究官ら3人。それぞれ地上と上空から調べた。 原因について「さらに十分な調査が必要」とした上で、溶結凝灰岩(ようけつぎょうかいがん)や安山岩でできた岩盤が「いつ崩れてもおかしくないぐらい強度が低かったのではないか」と説明した。地下水の影響について「全くなかったとは言えないが、数日前に降った数ミリ程度の雨では地下水の上昇は引き起こさない」と分析した。 一方で崩壊した上部斜面からはずっと水が流れ出している。地元住民からは「崩落する前、山水が出ていた」「地響きのような音がしていた」といった声も聞かれる。桜井研究官は「現場と一致するなら、前兆だった可能性が高い」と述べ、「しばらくは警戒が必要。落石や湧水量の増減といった前兆現象に十分注意を払ってほしい」と呼び掛けた。 ★緊急岩盤風化(劣化)調査が必要 雨も降らないのに突然斜面崩壊が発生。専門家のいうように「風化した岩盤が要因」とするならば、現場地域周辺だけでなく、全国で同様地盤の基礎調査を行い危険度状況と対応策を示さなければ住民たちの不安を解消できない。岩盤だから安全とは限らないのだから。 中津市の土砂災害を受け大分市は4月16日から市内の急傾斜地緊急点検を行う。対象は傾斜30度以上、高さ30メートル以上の急傾斜地で、人家がありフェンスや防災対策がされていない箇所。330カ所を市職員が約1か月かけて「亀裂や落石はないか、異変はないかなど」を点検すると共に、「雨が降っていなくても、災害が発生することの注意喚起したい」という。 ★雨なし土砂災害に備える 2013年(平成25年)浜松市天竜区春野町で発生した浜松市門島地区地すべり災害でも、雨が降っていない時に地すべりが発生している。あの時4月23日に地すべりが発生。今回の耶馬渓と同じように現場近くには鯉のぼりが泳いでいた。春野町地域は「地すべり防止地域」に指定されており、住民ががけ上端の亀裂を発見したことにより自治体と国交省が連携し警戒態勢を取った。そして、地すべりが発生する直前に避難勧告を出し、事なきを得た。耶馬渓町の土砂災害のように雨なし土砂災害はこれからも発生する可能性がある。既存のハザードマップの再点検など自治体と共に自分たちの地域のリスクをもう一度確認する必要がある。 |
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★前兆現象 急傾斜地や警戒区域などで斜面から水が噴き出したり、転石、地鳴り、樹木の傾き、井戸水の濁り、湧水の急激変化、腐ったような臭いなど、普段と異なる異常(前兆)現象を見逃さず、早期避難に結び付けることが大切。ただし土砂災害前に必ず前兆現象があるとは限らない。前兆現象がないから安心するのは早計。また、異常現象が起きてからでは遅い場合もある。地盤や斜面の亀裂、水の噴き出し、転石時はすでに崩壊が始まっている可能性も。つまり、状況によって前兆現象は崩壊現象の始まりともいえる。大雨の時に前兆現象の有無を警戒し危険区域を見回るのは極めて危険。崩壊現象が始まっていたら避難が間に合わない可能性がある。 もし、危険区域で平常と異なる事象を発見したら、直ちに地域の人、市役所、防災関係機関に通報すると共に早期避難が大切。前述の「春野町地すべり」のように、住民の亀裂通報により被害が軽減できた事例もある。地域の危険度、前兆現象など知識・意識を住民全員が共有する事が大切。 |
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斜面崩壊後は周囲のバランス不安定のため、さらなる崩壊に警戒が必要となる |
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岩盤の風化だけでなく地下水の影響も否定できない、さらなる専門家の検証必要 |
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数年前に発生した倒木・転石対策(鉄柵)も崩壊 |
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斜面は崩れやすく捜索活動は難航 |
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土砂もろとも崩れてきた巨岩・さらに崩壊し二次災害の危険 |
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警戒用定点カメラ |
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24時間体制警戒見張り番 |
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★土砂の量 アジア航測(株)さんが上空から航空機でレーザー測量した結果、最大幅110m、長さ75mの範囲が崩壊し、場所によっては崩壊前より約20m以上深く削られていることが判明。 これを基に計算すると崩壊した土砂の量は約6万㎥以上で10トンダンプカーで換算すると約1万台分にあたるという。 崩れ落ちた土砂は住宅付近に厚さ最大13m、斜面中腹でも5m以上の厚さで堆積していると推測されている。この大量の土砂が救助活動を妨げている。今後、不安定な急斜面に雨が降ったり、小さな地震でも落石やさらなる崩落の危険性もある。 |
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★遠隔操作無人バックホウ 行方不明者の捜索支援のため地元建設業者や自衛隊のバックホウ(重機)と連携し、国土交通省は省所有のバックホウ(油圧ショベル)を投入。このバックホウは危険斜面では遠隔操作により作業ができるため捜索活動の大きな戦力となった。 |
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★国交省・災害対策機械等出動状況 九州地方整備局は、行方不明者捜索のため照明者4台、無人バックホウ2台、ロボQS(バックホウ用簡易遠隔操縦装置)1台、衛星通信車1台、Ku-SAT(衛星小型画像伝送装置)1台、計9台とオペレーターを派遣した。 |
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★消防団員の死 耶馬渓土砂災害で安否不明者となった6人のうち、最初に死亡が確認されたのは地元消防団の中核メンバーだった岩下義則さん(45歳)だった。市内でカフェと雑貨店を営む中田充昭さん(34災)は5年前に耶馬渓町に夫婦で移住し、消防団活動に加わりそこで岩下さんとも知り合いになった。 11日朝、中田さん宅に団員が駆け込んできて「義則さんが埋まっている!」と叫ぶ。すぐに現場に駆け付け、仲間と一緒に懸命に巨大な岩や土砂をスコップや手でかきわけ続けた。「助かってほしい」しかし、その日の午後ようやく掘り出した義則さんは布団にくるまり寝ているようだった。ポンプ操法大会で地域代表に選ばれるほど消防団で活躍していた岩下さん。仲間たちは安置された遺体に手を合わせ「痛かっただろう」「辛かっただろう」と祈りつつ、まだ見つかっていない人をきっと見つけると誓い合った。 岩下さんへの尽きぬ思いを胸に、団員たちの多くは仕事を休んで捜索に参加している。雨や巨岩に阻まれ救助活動は遅々として進まないが、それでも「一日でも一時間でも早く助け出したい」「一人でも助かってほしい」団員たちの気持ちはまだ折れていない。中田さんは「苦しいけれど、今こそ岩下さんが大切にしてきたこの地域を仲間と一緒に支えたい」と思っている。 |
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崩壊斜面からのものとみられる濁水が止まらない |
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耶馬渓町の山は水が豊富 |
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至る所から湧水が流れる |
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今回土砂崩れが発生周辺には同様の地形・地質の急傾斜地多数 |
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過去に土砂災害が発生したと思われる斜面も多い |
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大雨でなく大地震発生時にも急傾斜地は土砂災害発生の危険性がある 地形・地盤を考慮し災害種類ごとに避難所・避難場所の設定が必要 |
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避難所の公民館 |
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★義援金 中津市は被災者支援の災害義援金と、復旧に充てる災害寄付金の受け付けを始めた。市役所や市内4カ所にある各支所の窓口と振り込みで受け付ける。 振込先は、大分銀行中津支店の「大分県中津市災害義援金 普通預金 7540303」「大分県中津市災害寄附金 普通預金 7564430」 |
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メディアの取材はモラルが不可欠 |
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風評被害で観光客が激減し温泉やホテルのキャンセルがあるという 災害はごく一部の地域だけ、名勝耶馬渓、温泉、道路にも全く支障はない |
本耶馬渓:競秀峰 |
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★耶馬渓(やばけい) 耶馬渓は、大分県中津市にある山国川の上・中流域及びその支流域を中心とした渓谷。日本三大奇景・奇勝(耶馬渓、小豆島寒霞渓、群馬県妙義山)として知られ、日本新三景に選定され、名勝にも指定されている。耶馬日田英彦山国定公園に含まれる。新生代第四紀の火山活動による火山噴出物、凝灰岩、凝灰角礫岩、熔岩からなる台地が侵食されてできた奇岩の連なる渓谷と絶景。凝灰岩や凝灰角礫岩の山には風食作用や河川の洗掘作用によってできた洞窟も多い。1818年(文政元年)に頼山陽が擲筆峰周辺(耶馬溪町柿坂地区)を訪れ、当時の「山国谷」という地名に中国風の文字をあて、「耶馬渓天下無」と漢詩に詠んだのが名前の起源。 |
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青の洞門 |
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★日本一長い鱧(はも)の椅子(JR九州日豊本線中津駅) 中津市は、希代の軍師黒田官兵衛孝高(如水)が築いた中津城のある城下町。その中津近海では鱧がたくさん収穫され、昔から中津の鱧は鮮度が高く栄養価の高さで知られていたが小骨が多く料理には難儀していたという。しかし江戸時代、器用な中津の漁師が料理人となって独特の下ごしらえを開発。薄刃のハモ切り包丁であざやかな手つきで長身のハモを引いて切る。鱧料理は中津の郷土料理となっている。中津駅には日本一長い(10m)椅子があり、駅で鱧をペットとして飼っている。 |
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耶馬渓・洞門そば(10割そばが絶品) |
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