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平成24年7月九州北部豪雨・現地調査・写真レポート(速報)
熊本編

犠牲者のご冥福をお祈り申し上げ、被災者に心よりお見舞い申し上げます(写真及び文/山村武彦

7月12日未明から早朝にかけ、山腹崩壊による土石流が各所で発生(熊本県阿蘇市)
熊本県阿蘇市だけでも、死者・行方不明22名、建物が多数損壊する大惨事に進展
7月14日は福岡県八女市・星野町・柳川市などでも土砂災害、洪水などの被害が発生

八女市水害 写真リポート

★災害にかかわる気象情報発表と対応の課題
 気象庁が出す大雨情報は、予報区ごとに次の順で注意、警戒を呼び掛ける。
@大雨注意報/災害が起きるおそれがある大雨情報
A大雨警報/重大な災害が起きるおそれがある大雨情報
B記録的短時間大雨情報/数年に一度程度の降雨量が短時間に降り洪水・土砂災害を起こすおそれがある大雨情報
C「見出しのみ短文情報(キャッチフレーズ警報)/さらに危険が切迫していると判断され、ただちに避難情報等を促す
 (気象庁は各種観測レーダーやデータをもとに「流域雨量指数」「土壌雨量指数」なども勘案して情報を発表する)
 今回気象庁は、大雨、洪水、土砂災害に係る注意報・警報を繰り返した後、7月12日未明までに「記録的短時間大雨情報」を7回発表した。さらに12日午前6時41分、熊本と大分の両県に「これまでに経験したことのない大雨」というキャッチフレーズ警報を発表し、気象庁が抱く最大級の危機感をこめ、厳重な警戒を呼びかけた。このキャッチフレーズ警報は、昨年9月に発生し多くの犠牲者を出した和歌山・奈良豪雨災害を教訓として改められた大雨情報発表基準のひとつである。今年6月27日運用開始後、今回はじめて適用され発表された。
 そのキャッチフレーズ警報が通知された熊本市、その時点で、「道路冠水情報」「河川氾濫水位情報」などとともに市民から寄せられるおびただしい情報が殺到していた。そんな中で気象庁からの「これまでに経験したことのない・・」は熊本県を通じ府県気象情報として受信された。錯綜する多量の情報の中で「これまでに経験したことのない大雨」という抽象的短文を熊本市はどう受け止めたのか。気象庁が意図する緊急性・重大性について、その時点で明確に認知・認識できなかったものと思われる。つまり、気象庁が伝えようとした最大級の危機感は現場に届いていない。その証拠に熊本市が避難指示を出したのはそれから約3時間後の9:20分だった。そのころすでに市中を流れる白川は氾濫水位を越え複数個所で越水し、北区などで濁流が町を襲い多数の床下・床上浸水被害を出していた。
 災害時、「国と自治体における緊急・重要情報の共有、緊急対応の共通認識」という、危機管理上もっとも初歩的かつきわめて重要な問題を露呈させ深刻な課題を残した。また、自治体等への防災情報集中過多・輻輳が現場の錯綜混乱に拍車をかけ、避難勧告・指示などのタイミングや適切な判断を阻害した可能性も否めない。これらをきちんと検証し今後の対策に役立てる必要がある。
 
★経験の逆機能に陥ってはならない「地球温暖化時代に即した国家百年の大計」
 今回多くの犠牲者を出した阿蘇外輪山周辺は、土砂災害常襲地帯である。国と自治体は、過去繰り返されてきた土砂災害発生現場などを中心にして、これまで約400カ所の砂防堰堤(ダム)などを設置しハードの防災対策を推進してきた。また、国の機関や自治体等が住民に示し、意識啓発をすすめる根拠とした県が作成した「土砂災害危険個所マップ」「土砂災害警戒区域マップ」などソフトの防災対策も、主に過去の災害発生個所が基準とされている。しかし、今回の土砂災害現場を見ると、過去発生していない地域や規模で土砂災害が起き、犠牲者をだしている。それにより被害を大きくしたとも考えられる。つまり、経験したことがない大雨が、経験したことのない区域・地域に降ったということである。過去の災害だけにとらわれることを「経験の逆機能」という
 このところ、過去にない豪雨が各所で頻発している。地球温暖化による異常気象が本格的に牙をむき始めたのかもしれない。日本の国土の約7割は山間地である。日本中いつでも、どこでも経験したことがない災害に襲われる可能性がある。既往災害にとらわれ経験の逆機能に陥ってはならない。
 その一方で、公共投資イコール悪というような短絡思考や、「コンクリートから人へ」というような一見耳触りの良い言葉で、画一的に物事を判断しようとする政治家もいる。治山治水は目先のことにとらわれたり、国民の安全を犠牲にした政争の具にしたりしてはならない。国は、過去の経験を参考にしつつも、事例だけにとらわれず、地球温暖化時代に即し、俯瞰した長期的視点で将来を洞察した国家百年の大計を建てなければならない。そして、国民の安全に係る社会資本の整備は、一定の許容限界を設けつつ優先順位をつけて積極的に推進すべきである。
 
★地方自治体と住民の「防災力・危機管理対応力向上」にコストとエネルギーを傾注せよ
 経験したことがない大雨やゲリラ豪雨が頻発している。しかし、多くの気象情報が発表されたとしても、それを自治体が適切に判断し、迅速な防災情報(避難準備情報、避難勧告、避難指示等)発表を決断し、きちんと伝達することが大切。そして、気象情報や自治体からの防災情報などが適切に発表されたとき、それを真摯に受け止め、迅速に安全な対応・行動を取れるかどうかは住民の意識によって左右される。
 これからの災害に強い町づくりの基本原則は自治体と住民の防災・危機管理対応力向上である。そこにコストとエネルギーを傾注し続けることが必要。どれほど堅固なハード(砂防ダム、堤防、構築物など)を造っても、それを破壊し、乗り越える洪水や土砂災害は発生する。ハードとソフトだけにとらわれず、システム(情報伝達、避難誘導)とヒューマンウエア(人)の視点から実践的な防災・危機管理政策の再点検が喫緊の課題。日本は自然に恵まれた国ではあるが、決して安全な国土ではない。それでも様々な角度からの安全対策を構築実践し、異常気象による自然災害を迎え撃つ仕組み、被害を少なくする安心できる仕組みのある国、「安心大国」を目指すべきではなかろうか。
 

 気象庁では、平成20年5月28日より、大雨及び洪水警報・注意報等の基準に、土砂災害や水害の発生と対応のよい新たな指標(土壌雨量指数、流域雨量指数)を導入した。
● 流域雨量指数の導入
 これまで、対象区域に降る雨の量だけを基準として洪水警報・注意報を発表していたが、上流域に降る雨の量や流下による時間差を考慮した流域雨量指数を新たに基準に用いることにより、水害発生の危険度をより高い確度でとらえられるようになった。
 雨が降ると、河川には流域に降った雨が集められ、時間をかけて下流へと流れてくる。このため、その場所に降った雨が少量でも、上流域に降った雨の量が多ければ洪水の危険度が高まることがある。また洪水の危険度が高まる時間
も、流域の形状や降雨の様子によって変わってきる。これを踏まえ、流域で降った雨の量や流下する時間などを考慮し、対象区域の洪水の危険度を表現したのが流域雨量指数。
◇洪水警報・注意報基準について
 洪水警報・注意報基準のうち、雨量基準は対象区域に降る雨による小河川の洪水のおそれの判断、流域雨量指数基準は上流域に降る雨による洪水のおそれの判断に用いている。流域雨量指数基準は、対象区域内の洪水の危険度を最も効果的に判断できる河川に対し設定される。このため、基準が設定されていない河川もある。
 また、上流域に降る雨の影響が少ないと判断された市町村では、流域雨量指数基準のない場合もある。その場合も、雨量基準を用いて洪水警報・注意報を発表する。洪水警報・注意報は、都道府県をいくつかに分割した区域をひとつの単位として発表し、区域のどこかで洪水のおそれがある旨を伝えもの。「指定河川洪水予報」のように個々の河川やその周辺地域を特定して警戒を呼びかけるものではないことに留意する必要がある。
● 土壌雨量指数の導入
 これまで、対象区域に降る雨の量だけを基準として、土砂災害への注意警戒を呼びかける大雨警報・注意報を発表していたが、土の中に貯まっている水の量を考慮した土壌雨量指数を新たに基準に用いることにより、さらに土砂災害の発生と対応よく発表できるようになった。雨が降ると、その一部は地中に浸み込む。大雨によって大量の雨が地中に浸み込むと、土砂災害(土石流・がけ崩れなど)の危険性が高まる。
 また、地中に浸み込んだ雨は地下水となり、時間をかけて徐々に川や海へ流れ出すため、土壌中に含まれる水分量は急には減らない。このため、何日も前に降った雨による水分量が影響して、土砂災害が発生することがある。これを踏まえて、降った雨が土壌中にどれだけ貯まっているかを見積もり、土砂災害の危険性を示したのが土壌雨量指数である。
◇大雨警報・注意報基準について
大雨警報・注意報基準のうち、雨量基準は浸水災害を、土壌雨量指数基準は土砂災害を対象としている。

九州北部豪雨の死者・行方不明と各地で観測された雨量(2012年7月16日現在)
九州北部豪雨の死者・行方不明者数  
 市町村名  死亡  行方不明
熊本県阿蘇市 19  3 
熊本県南阿蘇村  2  0 
熊本県高森町  0  1 
 福岡県八女市 2  0 
 福岡県柳川市 1  0 
 福岡県うきは市 0  1 
 大分県竹田市 2  0 
 大分県日田市 0  1 
 合計 26人  6人 
九州各地で観測された雨量(気象庁データから)  
 市町村名  7月・月間平均雨量  4日間の総雨量
熊本県阿蘇市   570.1o  816.5o
福岡県八女市  378.5o 649o
 大分県日田市 333.4o 462o
 阿蘇市乙姫の観測所では12日昼までの24時間雨量は史上最多の507.5oを観測。4日間の総雨量が816.5oは1ヵ月分の1.4倍(44日分)。その結果、阿蘇市周辺で130カ所の土砂崩れが発生。
また、一時20万人に避難指示が出た福岡県内では、八女市の総雨量が649o。4日間で53日分の雨が降った。

熊本、福岡、大分の3県で22集落・約550人が孤立状態にある。(7月16日現在)

阿蘇市・土石流
国内で発生する土石流の30%は、人工の杉林で起こっている
広葉樹と異なり、植林(挿木など)による杉の根は浅く、若木の時に間伐もされず放置されてきた
大雨で地盤が緩むと密集杉林もろとも大規模な山腹崩壊・土石流を引き起こす
その流木が、土砂ともに民家・住民・家畜を襲い、橋げたに引っ掛かり河川の氾濫、堤を破壊し洪水を招いた
 
せめて間伐さえしていれば、その空地に自然の広葉樹がしっかりと根を張るので崩壊を防ぐことができる
日本の場合、全森林面積の40%がこうした人工林である
住民の安全を含め責任は植林を推奨してきた歴代政府・行政にある
今後、山間地・急傾斜地における植林方法、山の安全・維持管理など
長期的なかつ一貫した国の林野政策が求められている

 
 阿蘇市坂梨一宮古城付近





懸命の応急工事

 

阿蘇市坂梨地区
山が襲った!
★夜中の大雨と雷「避難は無理だった」
 7月12日午前5時前、阿蘇市坂梨に住む市原真奈美さん(42)は雷雨の中、かすかな横揺れを感じた。市職員の夫は大雨警報を受け市支所に待機中で、真奈美さんは小中学生の子供2人と一緒に家にいた。
 家の前の道路は流木交じりの濁流。6時すぎ、勤務先に「出勤できないかも」と連絡した直後、台所のガラス戸が割れ、濁流が入ってきた。慌てて3人で外へ飛び出し、近所の家に逃げ込んで一命をとりとめた。「揺れを感じて、すぐ逃げれば良かったのかもしれないが、警報の度に夫が出勤するのにも慣れ、逃げる考えがなかった」という。
 市原さん方の2軒上手の古木国隆さん(49)は跡形もなく流され、一家4人と友人が死亡、妻美輪子さん(48)は約13時間後に救出されたものの、今も意識不明の重体。「ここは土砂崩れの常襲地帯。集落の上手に防災用防護壁があれば助かったかもしれない」と古木さんの親せきの男性は悔しさをにじませる。住民らによると、土砂は集落の北側の田んぼを中心に流れ下った。最上部の古木さん方が直撃された後、土砂は集落の狭い路地を川のように流れた。 ただ、倒壊が2棟にとどまったのは「路地や集落の配置で幸運にも勢いが弱まったのではないか」との声もある。
 市原啓吉さん(62)は、牛舎を見に出た時に土砂に襲われた。とっさに牛舎の2階へ、はしご駆け上がり難を逃れた。車や牛は流されたが、母屋は無事。「下には逃げられないと思った」
 12日午前4時、阿蘇市全域に避難勧告。阿蘇市乙姫で108oという観測史上最も多い1時間雨量を記録。それでも坂梨地区では避難したという話はほとんど聞かない。道路を隔てて被害を逃れた阿蘇市議の市原正さん(57)は土砂崩壊後に近所の10人を誘導し自宅に避難させた。「早めの避難というが、夜中にあれだけの大雨と雷の中、避難するのは無理だ」と強調する。
 「夜中の0時すぎ、水道の蛇口をひねったら黒い水が出た。山が崩れているのではと思った」と山部今朝範さん(68)。近くの公民館への避難を決め、阿蘇広域消防本部に勤める救急隊員の長男哲範さん(39)を通じ、地元消防団班長の山城幸次さん(44)に連絡。午前2時半、消防団員12人が一人暮らしの高齢者に避難を呼びかけたが、反応がない家もあった。「熟睡してい同じく一人暮らしのお年寄りの避難を支えた行政区長の和田寿輔さん(72)は、避難を呼び掛けて歩いた際、すぐ後ろを崩落した土砂がかすめた。「数メートル吹っ飛ばされた。紙一重で助かった」と振り返った。


土砂災害の樹木ほとんどが樹皮がはがれている


 

家が揺れたのであわてて2階に避難し家族全員無事だった




牛舎に土砂が流れ込み、多くの牛が流された


大分県に向かう滝室坂の上り口、国道57号線沿いに広がる阿蘇市坂梨地区
外輪山の東側斜面が数百メートルにわたって崩落し集落を襲い、ここだけで6人の命を奪った

史上最多の降雨量を記録した阿蘇市乙姫地区(左側の河川が氾濫、右側の店舗は2mほど浸水)

がけ崩れで押し寄せた火山灰地、水が含まれている間はずぼっと足を取られる

固まると人力では除去が困難になる


親戚やボランティアが駆けつけ泥の除去にあたるも困難を極める(ボランティアが不足している)
市内でボランティア派遣要請があったのは244件
熊本市では16日、市職員等約400人を含め870人が現地で泥だし作業にあたった
被害多かった社会福祉協議会が設置した阿蘇市災害ボランティアセンターに集まったのは248人
とくに平日のボランティアはきわめて少なく、派遣要請に対応できているのは10%に過ぎない
市の要請でボランティアに駆けつけた林田謙二さん(55)は
「明日から仕事が始まり、協力できないのは心苦しい」と話していた

 
 一部で消毒が始まるも、高温多湿の中、衛生強化が望まれる

 


土砂が流入し湖のようになった田んぼ

 

阿蘇駅周辺は被害なし、しかし一部線路が流失し電車は不通となっていて、バスが代行運行している
土砂災害現場付近以外阿蘇駅周辺は電気も水道も機能している
観光シーズンを前に地元では豊肥線の早期復旧をJR九州に要望している
被災者に配慮しつつ観光に行くことが、被災地阿蘇への激励と早期復旧に役立つ


8日ぶりに晴天となった7月17日、陽に映えた熊本城が一段と威容を誇る

参考資料:気象庁HP.熊本日日新聞
山村武彦/災害現地調査写真リポート 
 
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