10月29日再び歌舞伎町ビル火災タンク火災災害現地調査報告防災講演トップへ新宿歌舞伎町ビル火災概要


新宿ビル火災の教訓

   
            火災現場の明星56ビル              4階(キャパクラ)の道路側窓  

   
            ビル裏側通路(約1.5m)                 3階(カジノ一休)の道路側窓

ビル内から、助けを呼ぶ電話(119番)4本
1、9月1日午前1時1分、4階の飲食店から女性の声で
歌舞伎町なんですけど、火事みたいで煙が凄いんですよ、歌舞伎町一番街のスーパールーズです。早くきてください、出られない、助けて
2、午前1時3分、女性の声で
火事です、今現場いっぱい、4階、もう避難できないんで早く助けてください。10人ぐらい。お願い
3、午前1時5分、(パニック状態、物が倒れる音、バタバタという音)
すぐきてください、もうかなり煙が回っているんです、お客さんも女の子も全部、まだ到着しませんか、早く、かなりいるんです
4、1時7分、(悲しそうに、悲鳴に近い声)
火事です、4階のスーパールーズ。かなりいる、逃げられない、20人ぐらいいる

当時、3階のマージャンカジノ店「一休」内に19人、4階の風俗店「スーパールーズ」内に28人居たと見られ、3階から従業員3人だけが脱出に成功しただけで、3階に残った16人と、4階は28人全員が死亡した。

★出火建物/
 東京都新宿区歌舞伎町1丁目18番4号 明星56ビル
★出火建物概要/
 地上4階、地下2階、耐火建築物(鉄骨造、壁等ALC、建築面積83.07㎡、延べ床面積497.65㎡、階段は屋内階段1カ所
★建築確認等
 1984年8月建築確認(申請用途は各階飲食店舗)、同年10月工事着工、1985年8月15日建築同意、同11月22日使用検査
★2001年9月1日現在の各階用途
・ペントハウス 17㎡ エレベーター機械室
・4階   82.43㎡ 飲食店(キャバクラ・スーパールーズ)
・3階   82.43㎡ 遊技場(ゲーム麻雀「一休」)
・2階   82.43㎡ その他の事務所(セクハラクリニック「ナースイメクラ」)
・1階   82.43㎡ その他の事務所(ナイタイギャラリー)
・地下1階 74.60㎡ 遊技場(カジノパラダイスクィーン)
・地下2階 78.78㎡ 飲食店・機械室(ニュークラブレイン)
★防災・消防用設備等の設置状況
・消火器、自動火災報知設備(消防法・非常ベルに代わる自主設置)、誘導灯、避難器具4階に緩降機)、煙感知器連動建物常時開放甲種防火戸(各階階段室と専用部分間)、排煙設備は延べ面積が500㎡未満のため設置義務はなし
防災の日に大惨事
 平成13年9月1日午前1時、金曜日から土曜日の週末の賑わいを見せる新宿東口駅前の歌舞伎町一番街に遊ぶ人々は、まさかそこで大惨事が発生するとは知る由もなかった。「地下2階地上4階建ての明星56ビル(新宿区歌舞伎町1丁目)で火災」の一報が東京消防庁に119番通報で入ったのは0時059分、「3階から人が落ちた」という救急要請の電話だった。出火時間はこの直前と見られている。
 3階エレベーターホールから出火したとみられる火は、瞬く間に4階のキャパクラ「スーパールーズ」(無許可営業)まで一気に煙と熱風が駆け上がったものと見られ、3階と4階で44人が死亡し、3人が負傷した。新宿歌舞伎町ビル火災概要
自動火災報知設備に不備?、ベルが鳴らなかった
 熱や煙を感知して火災発生を知らせる自動火災報知設備は、電源遮断か、感知器が外されていたか、、感知器の上に天井が張ってあったかで作動していなかったと見られている。(前回消防立ち入り検査でも指摘されていたが、改善されていなかった)
高温の煙と熱風が襲った
 死者の多くは多少のやけどを負っているものの、ほとんどが煙による一酸化炭素ガス(CO)中毒死とみられている。犠牲者のほとんどの衣服がそれほど焼け焦げておらず、ゲームセンターの木製のジュピターと呼ばれるゲーム機の多くは焼け跡が少なかったことから、狭い場所で通気性の悪いところでの火災発生で、不完全燃焼状態の一酸化炭素ガスを大量に含んだ熱風ののような煙が店内を襲ったものと見られる。
出火原因と、短時間に高熱を発した原因は、謎
 火元は激しく燃えていた3階エレベーターホール防火戸付近から4階への上り口付近と見られ、同エレベータホールのタイル壁がはがれ落ちていた。これは高温の炎で急激に焼かれたためと推定され、大きな爆発を伴わない火災が最初の段階で発生していたことを示すとみられている。(出火場所は当初エレベーターホールのガスメーター付近ではないかといわれていたが、その後の調べでガス爆発の可能性は低いと見られている)しかし、階段室に置かれていたと見られるのはお絞りの入ったダンボールやカサなどで、シンナーやガソリンなど油脂類がまかれた痕跡も見つかっていないので、短時間で急激に温度が上昇した原因は現在謎となっている、出火原因、出火場所についてもまだはっきりせず、捜査本部の慎重な調査が続いているが、消去法で考えると、
現状では放火による可能性が否定できない。
ビル所有者と契約した後、又貸し
 関係者の話で、3、4階の店舗は、いずれもビル所有会社と賃貸借契約を結んだ名義人が、店の経営者に「叉貸し」していたことが分かった。3階は都内の不動産リース会社が借りて、10年以上前からマージャンゲーム店「一休」の経営者に貸していて、リース会社関係者は「消防から改善指導があったことも知らなかった。二重天井は今回、初めて知った」と説明している。4階も個人が賃貸借契約を結んで数年前から現在の店の経営者に「又貸し」していた。同ビルは98年1月、現在の所有会社が競売で取得した。テナント関係者によると、前のビルの所有者は、テナント経営者に「避難器具の設置」や「階段に物を置かない」等といった警告や指導を文書などでたびたび行っていたという。しかし、現在の会社が所有者となってから、こうした防災面がおろそかになり、階段が障害物で通行不能になるなど、管理体制がずさんになっていた。 消防法では防火対象物の関係者(所有者、管理者、占有者)に防火責任を定めているが、共に複雑な権利関係があり、防災責任の所在があいまいになっていたものと思われる。
ガスメーターの落下も謎
 捜査上困難となっているのが、ガスメーターの落下原因。エレベーターホールにある鉄製ボックス内で、2本のガス管から外れて落下していた。火災発生当時、ガス管からはガスが漏出していたとみられているが、ガス管とメーターをつなぐねじが緩んだ痕跡はなかった。 メーターには下から高熱を受けた跡がみられ、ボックス内は1000度を超えたと推定されている。捜査本部では、接合部に熱を加えて変化を見る燃焼実験などで鑑定を進める方針。
歌舞伎町ビル火災
写真・文/防災アドバイザー山村武彦

出火ビルの問題点
(一部推定)

基本的な安全無視
1、階段にロッカーなどが置かれていて、避難階段の役割を果たしていなかった。火災が発生時にも 防火シャッターが閉まらず、階段が煙突状態になってしまった。 (同店の従業員は、防火戸前にビール箱などを置いていたことについて「入り口を狭くすることで、 不審者が店に入りにくくするためだった」と話しているという。
2、4階の飲食店「スーパールーズ」には、入り口の西側(道路側)に避難用の扉が、東側と南側には 窓があった。このうち、南側の窓には不燃材がはめこまれており、通常内側からは開けられない構 造になっていたという。同店では男性18人、女性10人の計28人が死亡したが、いずれも一酸化 炭素中毒によるものと見られている。店の「密室構造」が被害拡大の背景にあるという見方が強い。
 また、出火元となった3階のマージャンゲーム店「麻雀一休」にも、道路側と、店の奥の厨房(ちゅうぼう)になっている東側、さらに南側の計3カ所に窓があったが、同店関係者によると、3カ所の窓は、通常の錠とは別の錠でふだんから施錠され、換気などのために開けることもほとんどなかったという。この別付けの錠は開閉の際に鍵が必要で、鍵は従業員だけがもっていたという。3階では男性9人と女性1人の計10人が死亡した。この店では、ドアの外側から内側に黒い煙が入り込んできたため、客が厨房の窓側に殺到するような形で倒れていたという。
3、3階には避難器具が設置されていなかった。
4、避難誘導訓練などが行われていなかった。
5、3階には、消防法施行令で設置基準が定められている誘導灯もつけられていなかった。
6、フロアの外部にダンボールなどが置かれていて、放火されやすくなっていた。
7、床面積などで、入場者数を規制する収容人員規制をオーバーしていた?
8、ビル全体及び各テナントごとに防火管理者の選任、消防計画の策定提出、消火訓練の実施など  の法律に違反していた。
9、定期的に消防用設備を消防設備士などに点検させていなかった。点検報告書も未提出であった。
10、自動火災報知設備に不備があった。(東京消防庁によると、救助隊員がビル内に入った際、自動 火災報知設備のベルが鳴っていなかった。3階店内には3カ所の感知器が天井に設置されている が、99年の査察の際、感知器を覆うように内装用の天井が張られていて、感知器が作動しない。可能性があるとして改善を指導していたという。同庁は、改善したとの報告がなかったことから、感 知器についてもそのままになっていた可能性が高いとみている)
11、消防署の立ち入り検査で指摘された改善指導事項の改善を行っていなかった。
12、全体に安全への配慮がなされていなかった。
危険ビル 不特定の人が出入りし、複数の用途に使用される建物は複合用途防火対象物(一般には雑居ビルと呼ばれている)として消防法では厳しい規制を定めている。本来は階段は建物の中にある内階段と、外部にある外階段の二つの階段が設置されることが望ましい。それは、火災などが発生したとき2方向に避難できることが原則であるからである。また、2階以上の階には避難器具(緩降機、救助袋など)の設置が義務つけられているが、出火したビルには4階に緩降機があったものの3階には避難器具が設置されていなかった。危険なビルの見分け方の目安は
1、2方向避難ができるように階段が複数あるか?
2、通路や階段に荷物などが置かれていないか?
3、誘導灯などのランプが切れていないか?
4、窓などが目隠しされていないか?
5、フロアから2方向に避難できるか?
6、防火管理者などの表示がなされているか?
7、安全に気を使っているように見えるか?
8、周囲に放火されるような物が積んでないか?
9、火災報知機の感知器が天井についているか?
10、エレベーター室の周囲に物が置かれていないか?
11、防火戸や防火シャッターの周囲に物が置かれていないか?
ビルに入ってしまう前に、自分自身で確認することが大切です。できるだけ危険なビルには立ち入らないようにする普段からの心がけが不測の事態を回避することになるのです。

避難器具
マンションなどのバルコニーには避難用ハッチ(避難梯子)が設置されているが、念のため場所を確認し実際にためしてみることも重要。また、避難器具は一般家庭でも2階以上には設置しておいたほうが安心。

 
避難はしご(たすかるくん) ステップダンⅡ型
危険(違法)な雑居ビルに行政指導を徹底せよ
(伝家の宝刀を抜くとき)
不況が続くと、経済優先になり人命や安全がおろそかになる傾向がある。人の心もすさび、凶悪な犯罪が増加する。不特定多数の出入りするビルにはそれ相応の責任があるにもかかわらず、収益のためなら法的に定められた消防用設備の設置、点検も忘れられてしまう。日本人は忘れやすい国民です。ホテルニュージャパン火災で学んだことも、阪神大震災で学んだことも時間の経過と共に忘れ去ってしまう。今回の歌舞伎町ビル火災もいずれ忘れてしまうだろう。防火対象物の規制、指導を行う消防機関も行政改革、予算不足で人員の増員は見込めない。しかし、人命をおろそかにするビルなどの関係者(所有者、管理者、占有者)に対しては、営業停止命令という伝家の宝刀を断固として命令すべきではないか。飲食店などで中毒患者を出すと保健所などはすぐに営業停止命令をだすのに、各自治体の消防機関はめったに伝家の宝刀を抜いたことがない。
強権発動や権力の濫用には問題もあるが、消防法違反でも営業停止命令は出ないとたかをくくっている不心得者には、それ相応の対処の仕方があると思われる。

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