社会福祉法人ライフケア高砂(特別養護老人ホーム) |
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特別養護老人「ホーム・ライフケア高砂」1階食堂で食事していた45名の入居者のうち7名が突然流入してきた土砂に巻き込まれて死亡 |
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裏山から流入した水は、1階を抜けて道路へ流れ出る |
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老人ホーム施設を迂回し裏山から続く渓流(上田南川) |
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山口県は21日、自衛隊に災害派遣を要請した |
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供えられた花 |
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枕ひとつ・・・ |
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佐波川流域の両側山間地で土砂災害発生 |
佐波川(さばがわ)上流に県営多目的ダム「佐波川ダム」がある、長雨が続き放流を伝えるサイレンが鳴り続ける
1956年9月に完成。水没(207世帯)した旧柚野村の中心地域が大原地区であったことから、人造湖は大原湖と命名された |
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がけ崩れや土石流が各所で多発 |
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土石流により破壊された砂防堰堤 |
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旧来の堰堤では砂防効果は限定的 |
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土砂が通り抜けた路地 |
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室内に流れ込んだ土砂 |
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超高圧旋回洗浄車が汚泥洗浄に活躍 |
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土砂に埋もれた門柱 |
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土砂に覆われた畑 |
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防府市国道262号線・勝坂トンネル付近 |
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防府市勝坂 |
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防府市勝坂付近 |
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浸水家財は使用不能 |
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雨が少ない地域?
山口県中南部に位置し瀬戸内海に面した防府市(人口116,954人)は、江戸時代中期から昭和30年代まで260年間にわたり全国有数の塩の産地として栄えてきた。天日干し塩田の必須要件は雨が少なく晴れる日が多いという地域特性。御船手組(毛利水軍)根拠地でもあった天然の良港防府港(三田尻港)は「山口雨でも防府(三田尻)は晴れる」といわれた防府市が今回未曾有の豪雨に見舞われた。梅雨停滞前線により降り続いていた雨は7月21日朝からさらに恐怖を与える恐ろしい勢いで雨を降らせたのだ。その日、防府市の雨量は1時間に70.5mm、24時間で257mmという実に凄まじいものであった。1時間に20mm以上、降り始めから100mmを超えると土砂災害の警戒が必要とされるが今回はその水準をはるかに超え、242箇所でがけ崩れなどが発生し、死者17名、全半壊建物51棟、床上浸水606棟、床下浸水2,585棟の大規模災害に発展した。
土砂災害警戒区域
防府市大字真尾(まなお)にある特別養護老人ホーム「ライフケア高砂」(要介護度3以上・収容能力約100人)の裏山が昼ごろ崩れ、大量の土砂が流入し1階食堂で食事中の45名の入所者中7名が土砂に巻き込まれ死亡した。この特養ホーム施設がある地域は、土砂災害防止法(2001年4月施行)に基づき2008年3月、山口県によって「土砂災害警戒区域」に指定された。その時防府市で警戒区域に指定されたのは同地区を含め587箇所。ライフケア高砂が開設されたのは1999年で、警戒区域に指定される以前ではあるが急傾斜地に近接した危険区域であった事実は変わらない。こうした災害時要援護者収容施設としてリスクアセスメントはきちんと行われたのか?どのような基準で立地条件としたかは極めて問題である。
防災情報と警戒避難
山口県等は当日早朝から数度にわたって「土砂災害警戒情報」を発していたが、防府市が真尾地区に避難勧告を出したのはライフケア高砂が土砂に襲われてから5時間後の17時20分だった。しかも避難勧告地域にライフケア高砂の地域は入っていなかった。土砂災害防止法では、指定した警戒区域内に存在する高齢者や障害者などが利用する施設には市町村から災害関連情報が伝達されることになっていた。しかし、防府市はライフケア高砂には何も情報を入れていなかった。そして避難勧告が出された地域でも豪雨の中、広報車による避難勧告を伝える放送が聞こえなかったところも多い。緊急時における防災情報伝達は複数の実効性のある手段を講じるべきあり、また短時間に伝達の確認作業を地域ごとにできるように行政、町内会、自主防災、消防団、水防団などの連携・協力体制も不可欠である。とくに災害時要援護者に対する避難支援体制がなければ、たとえ避難指示、避難勧告を発しても避難もできず警戒避難情報の意味を失う。
もう一方で住民や施設は行政だけに頼る他力本願防災ではなく、気象情報・危険情報・防災情報をを自ら取りに行くシステムや、早期自主避難できる体制を近隣防災関係者や向こう三軒両隣で構築するセルフディフェンスも考えなければならない。
土砂災害と今後の国家・国民危機管理
1999年6月29日、広島県呉市で発生した大規模土砂災害により養護施設などが被害を受け32名が死亡した。それが土砂災害防止法制定の契機といわれる。しかし、法令を策定し財政逼迫にあえぐ地方自治体に責任を転嫁するだけで土砂災害がなくなるはずもない。急傾斜地等に係る規制法令もご多分にもれず縦割り行政を色濃く反映し、土砂災害防止法、森林法、地すべり防止法、砂防法、急傾斜地法、道路法など各省庁にまたがるため、対策推進には強烈な政治力や煩雑課題の調整能力を発揮する情熱とエネルギー(人と金)が要求される。また、警戒区域よりさらに危険度の高い「特別警戒区域」に指定した場合、既存建物の移転勧告などを都道府県が行わなければならないことになっている。その場合、住民の説得、代替地手当て、費用助成など大変煩雑業務となる。そのため、「特別警戒区域」対象地区であってもとりあえず「警戒区域」としておかざるを得ないという地域もあるやに聞く。これは国民の安全より官僚事情優先の本末転倒でしかない。全国にある46万4千か所に上る危険区域対策や異常気象時代における治山治水は、国家責任と住民自己責任の明確化、長期的方策に対する国財政・予算措置の裏付け、これらが有機的に結合・機能する仕組みづくりが100年の大計と国土・国民危機管理の必須条件である。毎年繰り返し発生する大規模災害がそれを雄弁に物語っている。
現地を見て感じたこと
渓流に設置された旧来の砂防堰堤(ダム)がもろくも崩壊している姿をいくつも目にした。周囲の状況から判断すると砂防堰堤があったとしても老人ホームへの土石流流入は防げなかったのではないかと感じた。
それより何より、身体の不自由な方々の収容施設を危険個所に建設したこと自体が問題であるが、建てるのであれば万一に備えて山側に土砂遮蔽物の設置や開口部を設けないなど最低限度の危機管理対策もされていない。その上、義務付けられている防災マニュアルが未策定とあっては、避難勧告が適切に出されたとしても迅速な避難誘導ができたとは到底思えない。
にもかかわらず、7名の犠牲者を出した特養老人ホーム理事長は「裏山開発で樹木を伐採したから」「県に土石流の危険性があるから砂防ダム建設を要請していた」(テレビ山口)などと行政への不満と批難を繰り返した。これは自己の重大過失を糊塗する姑息な責任転嫁発言としか思えない。災害時要援護者の命を預かる施設としての責任と義務を果たしていなかったことは明白であり。土砂災害の危険性を充分認識していながら対策を講じていなかった責任は免れない。政府・関係機関はこうした豪雨がもはや想定外事象ではないことを認識しなおし、危険個所に存在する既存施設に対する厳重な監視と指導を怠ってはならない。 |
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