ニューヨーク・カナダ大停電(2003年8月14日)

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ニューヨーク大停電(newyork blackout
Newyork A major power outage struck

近代都市への警告を看過してはならない(関係者よ驕るなかれ、市民よ油断するなかれ)
 現代は何もかもが電気に頼る時代、反面、一旦停電すると都市機能麻痺という脆弱な近代都市の一面を露呈する。1977年の大停電、9.11テロを経験したニューヨーク市民は29時間もの停電に冷静に対処した。
 日本で同規模の大停電が発生すれば、社会的パニックが起き、大混乱に陥る可能性がある。今回送電が停止された電力は約6000万キロワットで、東京電力の供給量に匹敵するという。日本でもテロや災害などの停電トラブルが発生する可能性もある。今回のニューヨーク大停電は、電力やコンピュータに過剰依存した近代都市、社会システムへの警告と受け止めなければならない。
 この大停電を目の当たりにしても、日本の政治家、電力、防災関係者は「日本はループ送電とかのバックアップ体制が完全だから米国と同じ災害は起こらない。それにアメリカのように復旧が遅れることはない」と異口同音にのんきなコメントをしている。良い方に解釈すれば、市民に不安を与えないための配慮とも受け取れるが・・・・それは自己過信としか思えない。
 こうしたコメントは以前にも聞いたことがある。1989年10月17日に発生したサンフランシスコ地震でベイブリッジが落ちた時、そして、1994年1月17日、ロサンゼルスノースリッジ地震で多くの高速道路が崩壊したとき、日本の道路、建設、防災関係者と政治家は口をそろえて「日本の道路は耐震性があるから、関東大震災級の地震に襲われても、このような災害には発展しない」とコメントしていたのを思い出す。
 皮肉なことに、そのロサンゼルス地震からちょうど一年後の1995年1月17日、阪神・淡路大震災が襲った。そして、高速道路はおろか、新幹線の橋脚と一緒に根拠のない安全神話は、一瞬にしてもろくも崩れ去ってしまったのだ。その時、彼らは「考えられない災害だった」とコメントした。考えられない災害ではなく、考えなかっただけなのである。そして、その責任は誰も取らないのである。
 政治家、電力、防災関係者よ驕るなかれ、市民よ油断するなかれ、みんな、他人に厳しく自分には優しいのだ。希望や願望は決して権利ではない。今回のニューヨーク停電災害を対岸の火事とせず、仲良しクラブの甘いコメントに惑わされず、第三者の厳しい眼を受け入れ、今一度多角的複眼的に危機管理マニュアルを根本から見直すべきである。
 なぜならば狭い国土にもかかわらず、世界で発生する地震の約20%は日本で発生している事実を忘れてはならない。阪神大震災のときは兵庫県南部の狭い範囲の被害にもかかわらず、約8日間停電が続いた。今後予想される東海地震、東南海・南海地震や神縄・国府津松田断層地震などのように広範囲に被害が及べば、首都圏をはじめ中部、近畿の大都市で広範囲に長時間停電が考えられるからである。
 非常電源装置が用意されているからと安心してはいられない。その燃料はどこも数時間分しか備蓄されていないのが実情なのだ。危機管理対策を講じるとき、サイバーテロなどに備えるとともに事故や大規模地震など最悪を想定し、ライフライン長時間バックアップが必須条件である。すべての危機管理は事前対策、一つ一つの問題点を事前に厳しく評価し、「安全の死角」を克服する努力こそ、今、焦眉の急なのである。 (防災アドバイザー山村武彦)(防災顧問)(防災システム研究所

                             
  光を失ったニューヨーク(AP)                        ロックフェラーセンターのレストランもキャンドルで(AP) 


アメリカ・カナダで史上最大の停電、約5000万人に影響
2003年8月14日(日本時間15日早朝)午後4時過ぎ、アメリカ北西部からカナダにかけた東部一帯に大規模(6000万キロワット)停電が発生した。停電区域は米国東部のニューヨーク、クリーブランド、デトロイト、ペンシルベニア、バーモント、オハイオ、コネチカット、メリーランド、マサチューセッツ、ミシガンの各州をはじめ、カナダのトロントやオタワなど広い地域にまたがっている。大都市では地下鉄や、エレベーター内に多数の人々が閉じ込められるなどの被害が出たが、その後ほとんど救助された模様。停電が夕方の帰宅時間と重なったために、通勤通学客の足が大混乱となり、アメリカ・カナダ両国で約5000万人に影響を与えたと見られ、史上最悪の広域災害になった。16日にはほぼ復旧したが、ニューヨーク州知事などは、今後も再発の懸念があるとして、節電を呼びかけている。停電の後遺症はまだしばらく続きそうである。
 
29時間ぶりにBlack AppleからBig Apple
停電から29時間後の現地時間15日夜(日本時間16日午後)、ニューヨークの電力はすべて回復したが、停電から36時間、一日460万人が利用するといわれる地下鉄は動かず、道路や交通機関は大混乱となり、ビジネスマンたちの中にはオフィスやタイムズスクエアなど野外で一夜を明かす人もいた。気温は30℃を超え、エアコンが止まり、野外の方が快適で暗い室内にいるより、外にいるほうが安全だという人もいた。
 ニューヨークは親愛をこめて
The Big Appleとよばれるが、停電の最中は自虐的にThe Black Appleと呼んでいた。暗闇から29時間たってようやくニューヨークは光を取り戻した。地下鉄も16日早朝、36時間ぶりに再開された。
左の写真はニューヨークシティホールの入り口で眠る人々(AP)
ブルームバーグ・ニューヨーク市長は停電直後に記者会見し、「現在のところテロの証拠はなく、停電は数時間以内に復旧する」との見解を示した。また、その後の会見で、「地下鉄などに閉じ込められた人たちは大部分救助され、停電は徐々に回復する」と自信を持って述べた。
ニューヨーク州、ニュージャージ州に非常事態宣言を発令

 ニューヨークでは市民の生活に大きな混乱が生じている。市民はスーパーマーケットなどにつめかけ、食料の買出しなどを急いでいる。警察は混乱に乗じた略奪などを防ぐため4万人の消防、警察官を動員し上空からヘリコプターなどで監視を強め、警戒体制に入った。ロウソクによる火災などが1,037件発生し一部の都市で小規模な犯罪や略奪があったが、前回の大停電のときのような大規模な暴動や略奪はいまのところ発生していない模様。全体としてニューヨーク市民は冷静に対応しているとの印象である。
ブッシュ大統領はカリフォルニア南部の米軍基地を訪問。海兵隊員らと昼食中に停電の一報を聞いた大統領は、直ちに記者会見して、ニューヨークなど北米の複数の都市で起こった大規模停電について、可及的速やかに復旧できるよう、連邦政府が被害を受けた州や地方当局と連携して対応している、としたうえで、停電の原因を調査する方針を示した。 大統領は記者団に対し、「停電はテロ行為によるものではない」と言明。そのうえで、「この大規模な国家的問題にゆっくりだが確実に対応している」と述べ、事態の打開に自信を示した。
日本人は
日本総領事館によると、日本人で地下鉄などに閉じ込められたり、停電による直接被害を受けたり犯罪に巻き込まれたという報告はこれまでに受けていないという。
停電の原因はまだ特定できていない?
 停電の原因については一時発電施設への落雷、火災説もあったが、オハイオ州の発電所のトラブルが直接原因という情報もある。いずれにしても60年代に設置された送電設備の老朽化原因説に落ち着きそうである。カナダとアメリカ両国首脳が話し合って、合同調査委員会を設置して原因究明に当たるとしている。世界一の情報社会といわれるアメリカで、これだけの大停電発生原因が直ちに特定できないというのは不思議な気がする。
停止した原発からの放射能漏れはない
 ニューヨークでは米東部時間の午後4時10分から3分間で、9つの原発を含む21の発電プラントがシャットダウン一斉に停電した。原発の自動停止による放射能漏れは今のところ観測されていない。
空港は混乱するも、4時間後再開
市内はすべての列車、地下鉄が運行を停止し、ケネディ国際空港など三つの空港も一時閉鎖されたが、4時間後には再開された。一部で離発着の遅れや欠航があって混乱した。再開された後も約3,000人の乗客が空港で夜を明かした。
道路は車と歩行者であふれた
道路などの信号機がすべて消え道路は大渋滞を起こしている。地下鉄などを利用できなきなくなった多くの人々が路上を歩いている。このため市当局はラジオを通じて人々に会社や自宅にとどまり、車の使用を避けるよう呼びかけている。
ニューヨーク証券取引所は
ニューヨーク証券取引所の停電は14日の取引終了後10分後だったので混乱は起きなかった。15日は市場が開かれる前に電気が復旧したため平常通り取引が始まり終わった。
携帯電話がつながらない、市民はカーラジオが頼り
 現在のところ、市内の病院や放送局などは非常用発電機が稼動しており大きな影響は出ていない模様。しかし、復旧が長引くとさらに混乱が増す可能性がある。米北部で最大規模の電話会社ベライゾン・コミュニケーションズは14日、同社の電話ネットワークが通常どおり稼動しており、大規模停電の影響を受けていないと発表した。 ベライゾンの広報担当者は、「固定電話はうまく稼動している。ただお互いに通話を試みる人などが多く、回線が混み合っている」と述べた。ニューヨーク市内では午後11時になっても携帯電話がほとんどつながらず、家族との連絡が取れないなどの混乱が続いている。市民はカーラジオでの情報が頼りだといっている。
リーダーたちの素早い対応
 大規模停電は2001年9月11日の同時多発テロを思い出させた。テロ再発またはイラクの報復(サイバーテロも含む)の疑念もあったが、大統領、州知事、市長など指導者たちの素早い記者会見、「この停電はテロではない」といち早コメントし、市民に平静を呼びかけたので、市民の不安はすぐに解消された。こうしたアクシデントが発生した場合、リーダーが市民の前に顔を見せ、明確にコメントすることの大切さを実証した。
史上最大の停電(暗黒の木曜日)ニューヨークの灯は消えても、思いやりの灯は消えなかった
 この大停電にもかかわらず、地下鉄が止まり、携帯電話がつながらないにもかかわらず、ニューヨーク市民は実に辛抱強く耐えた。「1977年の大停電のときは混乱と犯罪が起きたが、今回は思いやりが目に付く」とブルームバーグ市長が述べたように、1977年の停電のときは4500人の略奪者が逮捕されたが、今回は約250人の窃盗逮捕者だけだった。これは9.11を経験した市民が危機に対して耐えることを学習したのかもしれない。そして、危機に際して国民が一致団結して危機を乗り越える風潮が今回の危機における市民行動に影響を及ぼしたと見られる。停電が発生しても騒ぐ人は少なく、帰宅できずに路上に寝泊りしている人に「私の家に泊まりませんか」「ローソクは要りませんか」と声をかける人たちが目立った。市民による自発的な交通整理や、安全パトロールなど市民は連帯して暗黒の街を守り抜いた。

過去の大停電
 今回の被災地域では65年にも、ナイアガラ付近の停電をきっかけに約3000万人が被災した史上最大の停電が起きた。カナダと米国の発電・送電網は37カ所でつながっており、被害の拡大を防ぐシステムが十分に機能しなかった可能性が高い。また、ニューヨークでは1977年にも落雷による大規模停電に見舞われ、復旧に手間取り3日間も停電しつづけ大きな混乱を招いた。9ヵ月後にはベビーブームが起きたた。また、2001年にはカリフォルニアで規制緩和に端を発し広域停電が発生した。予想された停電だったが、損失は5兆円といわれている。
 日本でも1987年7月23日に東京で停電が発生した。その時は猛暑による電気の使いすぎが原因で280万世帯が停電、工場も止まり、1兆8千億円の損失だったといわれる。


  
ニューヨーク・ブルックリンの橋の上の大混乱(AP)と、止まった地下鉄から脱出する人たち(AP)

  
   食料などを買い求める人々(AP)              列車から避難する人々(AP)           ノーウォーク駅の時計が停電の時間で止まった(AP)


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