米国同時テロイラン地震危機管理マニュアル防災講演韓国地下鉄火災テロ対策ロシア地下鉄テロ事件


スペイン同時列車爆破テロ事件

 2004年3月11日午前7時30分(日本時間午後3時30分)頃、スペインの首都マドリード中心部の三つの駅で四つの列車が10分の間に次々と爆弾が破裂、車両は大破した。通勤通学客でのラッシュ時間を狙った卑劣なテロで、これまでに200人の死亡が確認され、約1500人が重軽傷を負った。爆弾は、バックバッグに入れた工事現場などで使用されるダイナマイトを、携帯電話で起爆させる遠隔起動型と見られている。アセベス内相によると、三駅で四つの車両内や駅近くの路上など、計13ヶ所に爆弾が仕掛けられていた模様。そのうち10発が爆発し、不発だった3発は治安当局が処理したと発表。爆発はマドリード中心部にあるアトーチャ駅構内の無人の列車で始まった。その直後、構内に到着しつつあった別の乗客を満載した列車内3カ所で爆発したという。スペインでは14日に総選挙の投票を控えているが、主要政党は選挙運動の中断を表明した。政府は11日から3日間を服喪期間とすると発表し、全国民にテロ組織との闘いを呼びかけた。この事件を受けて、世界中の市場で株価大幅下落となった。

 
 

「決死中隊/アルカイダ」を名乗るグループが、犯行声明で日本などを名指しで警告
 当初捜査当局は、非合法組織「バスク祖国と自由(ETA)」による犯行としていたが、マドリード郊外で見つかった盗難小型トラックからコーランをアラビア語で朗読したカセットテープなどと起爆装置7基が発見され、国際テロ組織が犯行に関与しているとの見方もある。
 また、イギリスのアラビア語紙「アルクドウズ・アルアラビ」に11日夜、アルカイダを名乗るグループから犯行声明が届いた。声明文は決死中隊/アルカイダを名乗り「我々は十字軍同盟の一翼であるスペインに厳しい一撃を与えた。アスナール(スペイン首相)よ、英国よ、日本よ、そして他の(米国の)協力者たちよ、誰がお前たちを我々から守るのか」と日本などを名指しで警告している。

犯行声明ビデオ届く(9.11テロから2年半を期しての犯行)
 その後、国際テロ組織アルカイダの欧州軍事報道官を名乗る男が犯行を認めるビデオが、匿名の電話の指示によってゴミ箱から見つかったと、3月14日、アセベス内相が明らかにした。アラブなまりの男の声で地元テレビ局に電話がかかり、その男の指示したゴミ箱からビデオテープが発見された。
 見つかったビデオでは、軍事報道官を名乗る、アラブ風の服装、モロッコなまりの男が登場し、アラビア語で話している。ビデオの中でその男は「ニューヨークとワシントンへの攻撃からちょうど2年半後にマドリードで起きた事件は、われわれの手によるものだ。犯罪者ブッシュ(米大統領)やその同盟者に協力してきたお前たちへの回答である」と主張している。
 マドリードの列車同時爆破事件が起きた3月11日は、ニューヨーク世界貿易センタービルなどの同時多発テロ事件(2001年9月11日からちょうど2年半にあたる。捜査当局は事件との関係を慎重に捜査しているという。
テロの影響を受け、総選挙でスペイン政権交代
 3月14日のスペイン総選挙で、選挙前の予想を覆して野党社会労働党が勝利した。この逆転勝利は3日前の列車同時爆破テロの衝撃が国民感情を動かしたと思われる。イラク戦争開戦前、スペイン市民の80%から90%が戦争反対を表明するなど、欧州で最も反戦意識の強い国であった。アスナール政権はそうした世論の猛反対を押さえて、いち早くブッシュ支持を打ち出し、イラクへ軍隊を派遣した。その後は規定事実を追認していたように見えた市民のイラク派遣に対する考えは、総選挙の結果を見る限り政府への不信感が内在していたことをうかがわせる。
 そのきっかけとなったのは、当所政府が発表した「バスク祖国と自由(ETA)」の犯行との見方が、イスラム過激派の犯行との見方が濃厚になり、国民のアスナール政権に対する不信感が一気に噴出した。「テロは許さないが、テロを誘発した政権も許さない」として、前回の投票率を大幅に上回り、国民は政権批判を強める行動に出たのだ。結果として、テロリストたちに目的を果たさせた格好となったが、スペイン市民は決して無差別テロを認めたわけではない。政権への不信感とテロへの怒りが爆発しただけなのだ。
 しかし、8年ぶりに政権に返り咲いた社会労働党はサバテロ書記長自身党内をまとめきっておらず、公約のイラク撤兵も国民党の抵抗、米国の反発なが予測され、直ちに公約を果たすことは困難と見られている。社会党は1982年、北大西洋条約機構(NATO)からの脱退を公約に掲げて政権を獲得したにもかかわらず、2年後にはNATOに残留することに方針転換し国民の批判を招いた「前歴」があり、スペイン政権はしばらく混乱が続くものと見られる。


日本にもテロ攻撃のおそれ、立ち向かう覚悟が必要
 アルカイダと名乗るグループから日本への警告は昨年来再三続いている。今回、マドリードの無差別テロを犯した卑劣なテロリストたちは、イラク攻撃支持国及びアメリカ協力国に本格的攻撃の火蓋を切った。無防備の日本でも同じようなテロ事件発生が懸念される。不特定多数を狙った無差別テロの場合、駅や交通機関など、全ての拠点や施設を警察が厳重警備することは困難。国民一人一人がセンサーとなって、不審者、不審物に目を配り、未然に防ぐことしか打つ手はない。テロとの戦いは、それを決して許さず、断固として立ち向かう勇気と覚悟は必要である。
 また、スペインは米英によるイラク攻撃をいち早く支持し、治安維持活動にに1250人の軍隊を送っているが、今回のテロ事件で世論は撤兵へと大きく傾いてた。小泉政権も、国民の半数以上の反対を押し切ってイラクへ自衛隊を派遣した。国内でテロにより国民に犠牲者が出れば、スペインの二の舞になる危険性をはらんでいる。政府は自国民を守るために、もっと本腰を入れてテロ対策を強化すべきである。
防災アドバイザー山村武彦